外国企業の債権を担保にとる方法
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<ポイント>
◆外国企業の日本企業に対する債権を日本法に従って担保にとることは可能
◆担保対象債権の準拠法を日本法、専属的管轄裁判所を日本とする方法が有効

日本企業が外国企業と取引きする場合、相手の外国企業の信用状況が問題となることがあります。 たとえば商品売買をする場合、外国企業に信用状(L/C)を開かせることにより確実な代金回収を図ることも多いでしょうが、外国企業が常にL/Cを開くことができるとは限りません。 外国企業がL/Cを開けない場合、外国企業に対して担保の提供を求めたい場合が生じます。特に、売買を繰り返すような場合、未払いの売買代金債権が溜まって多額になることもあり、担保提供の必要性はより大きくなります。 その場合、外国企業の保有する債権(本稿では、「債権」は金銭債権を指すこととします)を担保として提供するよう求められないかの検討が必要となることがあります。 しかし、外国企業の債権を担保にとるには当該外国の法律に従って契約書を作成しなければならないのではないか、また、英語または現地語で契約書を作成しなければならないのではないかが問題となり、そうだとすれば決して容易なことではないし、多額の費用(たとえば弁護士報酬)がかかるかもしれません。 これに対し、外国企業が別の日本企業(本稿では、担保を取得する日本企業と区別するために「債務者(日本企業)」といいます)に対して債権を保有しており、その債権について日本法に従って担保権を設定できるのであれば、上記の問題は相当程度解決します。 外国企業の債務者(日本企業)に対する債権に担保を設定できるか、どういう手続きをとる必要があるか等を決める国の法律を準拠法といいますが、本稿では、外国企業の債務者(日本企業)に対する債権に担保権を設定する場合に日本法を準拠法にできないかを検討します。 なお、日本法では、債権担保には譲渡担保権の設定(担保目的での債権譲渡)、または質権の設定の2種類の方法がありますが、本稿では、債権譲渡特例法により将来発生する債権でも比較的簡単に担保権の設定ができるようになったこともあり、債権譲渡担保だけを取り上げることにします。

外国企業が日本企業に対して契約の履行を求めて日本の裁判所に訴えを提起した場合、日本の裁判所は、法の適用に関する通則法(以下「通則法」といいます)により当該契約の準拠法を決め、その準拠法を事案にあてはめて判決をします。 通則法のように準拠法をどの国の法律にするかの定めを国際私法または抵触法といいます。 外国企業の債務者(日本企業)に対する債権について譲渡担保権が設定され、その担保権者が債務者(日本企業)を日本の裁判所に訴えた場合、譲渡担保権の設定が有効かどうかについては、通則法23条が適用されます。 同条では、債権譲渡の準拠法は対象債権の準拠法としていますから、外国企業と債務者(日本企業)間の契約により決められた対象債権の準拠法が、債権譲渡担保についても適用されます。 そうすると、外国企業と債務者(日本企業)間の契約で対象債権の準拠法を日本法とすれば、当該外国企業や対象債権の譲渡担保権者だけでなく、当該外国企業から二重に債権を譲り受けた者、当該外国企業が破産した場合の破産管財人が、日本の裁判所に債務者(日本企業)を訴えた場合に日本法が準拠法となります。 したがって、譲渡担保権者は、債権譲渡特例法による登記または民法による確定日付けによる通知・承諾を得ていれば優先権を取得できます。

しかし、外国企業が破産をした場合、破産管財人が日本の裁判所に訴えを提起するかどうかはわかりません。外国企業の破産管財人が、当該外国企業の所在地で債務者(日本企業)に対して訴えを起こすことも考えられます。 そのような場合、当該外国の国際私法が適用されるので、必ずしも対象債権の準拠法が債権譲渡担保の準拠法となるとは限りません。 アメリカなどは譲渡担保の設定者(上記例によれば外国企業)の所在地法を準拠法とすることになっているため、日本法による登記、通知・承諾では破産管財人に対して優先権を主張できないかもしれません。 このような状況は、当該外国企業が対象債権を二重譲渡し、譲受人が日本企業に対して外国裁判所で訴えを提起する場合にも起こりえます。 そのため、これに対する手当が必要であり、その有力策として外国企業と債務者(日本企業)間の契約で日本の裁判所を対象債権の唯一の管轄裁判所(exclusive jurisdiction)とすることが考えられます(国際的な管轄裁判所についての詳細は、拙稿「国際売買基本契約の要点」参照)。 そうしておけば、日本の裁判所では通則法を適用するので、日本法による登記、通知・承諾で優先権を主張することができるからです。 ただし、イギリス法では、債権譲渡の準拠法は対象債権の準拠法としながら、将来発生する債権を含めた債権の譲渡担保については譲渡人の所在地法を準拠法とすることになっているので、日本の裁判所においても、そのような判断をする可能性はあることに注意が必要です。 しかしながら、通則法の立法経緯やそれを踏まえた学説をみると、日本の裁判所が譲渡担保についてのみ対象債権の準拠法と異なる国の法律を準拠法とする可能性は低いものと考えられますので、この点については、現在のところ、大きく心配する必要はないようです。