団体交渉打切りと不当労働行為の成否-判例紹介
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<ポイント>
◆使用者には団体交渉に応じる義務がある
◆話し合いのテーブルにつく姿勢が重要
◆交渉を打切る判断は慎重に

労働組合から団体交渉を要求された場合、使用者は、労働組合と誠実に団交を行うことが求められ、それに反する場合は、不当労働行為であるとして、組合からの申立に応じて団交を行うように命令が出されたり、違法な行為として損害賠償を命じられたりします(労働組合法7条等)。
ただ、団交は、一般的にはかなり緊張感のある交渉であることが多く、ケースによっては、団交を合意により終了できないことがあります。
その場合、使用者としては、これ以上の交渉に応じることができないとして、団交の打切りを行う場合があります。
労働組合がこれに不服がある場合には、その打切りが誠実に団交に応じる義務(誠実交渉義務)に反する不当労働行為であるとして、労働委員会に対して救済申立てを行うことになります。

今回は使用者が団体交渉を打切ったケースについて、不当労働行為に当たるかどうかの判例(日本郵便事件 東京高裁令和元年7月11日判決)をご紹介します。
本件の事案をごく大まかに説明すると、雇止め予告をされた労働者が労働組合(ユニオン)に加入して、組合から「雇い止めの撤回」を求める団交要求がなされ、会社が二回目の団交時に以後の交渉を打ち切る意思表示をしたが、その後、組合から、団交の席で話題となった、「雇い止めに至る経緯でのパワーハラスメントについての謝罪を求める」ことを要求事項に含めて団交の再開を求めたものの会社がこれに応じなかった、というものです。
争点は、「雇止めの撤回」についての交渉が打切られたのちに、この「パワーハラスメントについて謝罪を求める」団交(再開)申し入れについて会社が応じなかったことが不当労働行為に該当するかどうか、という点です。
この点、東京地裁(原審)は、(1)パワハラに対する謝罪の要求を交渉事項の一つとして団交の申し入れを行っているが、この要求が労働組合の本質的な要求と解することはできない、(2)会社は雇い止めに関しては相当の説明を尽くしており、パワハラについても一定の説明を尽くしている、(3)そこでのパワハラについての一定の説明及び組合の交渉態度も踏まえれば、パワハラに対する謝罪の要求に関する団交に応じなかったこともやむをえない、としました。
しかし、東京高裁(本判決)は、会社の行為は不当労働行為に当たるとして原判決を取消しました。
その主な理由は、(a)行われた団交においては、パワハラに対する謝罪の要求が交渉事項となっていたものではない、(b)組合の行った雇止めに至る経緯でのパワハラに対する謝罪の要求は、雇止めの撤回を求める団交事項に包含させる趣旨であるとは解されない、というものです。

団交を求められた場合には、使用者は誠実に対応することが求められますが、合意達成を強制されるものでも、無期限に交渉を継続する義務を負うのでもないことは当然のことです。
一方、団交の対象を定めるのは労働組合であり、実質的に同じ問題の繰り返しであったり明らかな引き延ばしであったりするのでなければ、交渉の過程において他の論点が浮かびあがってきた場合には新たにその点についての団交を求めることも許されると思われます。
そのように考えると本判例の結論は是認されるものと思われます。

団体交渉においては、シビアなやりとりになることも多く、使用者側ができれば早めに打ち切りたいと思う心情は理解できます。
しかし、使用者側には誠実交渉義務がある以上、少なくとも話し合いのテーブルにつくことは必要です。
本件においては、使用者側は、パワーハラスメントに該当しないと思われる根拠と、したがって謝罪する意思はない、ということを交渉の席で説明すれば、何度も交渉を継続する必要も、パワハラについて謝罪する必要もない事案であったように思われます。
一般論としては、交渉に応じる義務があるかどうかが明確でない場合には、交渉に応じるべきかどうかを弁護士に相談するなどして、少なくとも必要と思われる範囲については対応すべきであり、やみくもに交渉を打ち切ることのないように注意が必要です。