営業と法務の連携による債権の管理・回収
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債権の管理・回収にあたっては、法務などの管理部門と営業部門がうまく連携することが重要です。
ポイントは「情報の収集・共有」、「役割分担」です。

「情報の収集・共有」ですが、営業部門の担当者に負うところが非常に大きいです。
取引先に信用不安がある、倒産したといった情報は、はじめに営業担当者が入手する場合が多いと思います。法務部門など社内各部署がタイムリーに状況把握するためにはまず営業担当者から他部門への第一報が大事ということになります。
具体的な保全・回収策については法律的な観点をふまえて検討することになります。これは法務部門や弁護士の役割といえますが、法律判断を行う前提として、取引先の信用悪化がどの程度で今後どのような事態が想定されるか、当社が納入した商品がどこにあるか、他の取引関係者の動向はどうか…などなどの事項について把握しておく必要があります。
法務部門においても独自に調査を行うことがありますが、取引先の訪問、納入済み商品の確認といった「現場の情報」については、普段から取引先とやりとりしている営業担当者に収集していただくのが効率的です。

取引先の信用悪化時の大事な初期対応のひとつとして、不良債権を増加させないよう出荷停止を行うことがあります。
取引先がジャンプ依頼してきた、弁護士から受任通知がとどいたなどの場合であれば、その取引先は相当深刻な状態にあるといえますから、営業部門の判断で直ちに出荷停止してもさほど問題ありません。
これに対して、取引先の信用悪化に関する風評など、見逃せない兆候があるものの信用悪化の有無・程度がはっきりしない、という場合には注意が必要です。判断を誤ると、出荷停止によりかえって自社が契約違反の責任を問われることになりかねません。
出荷停止するためには、契約解除事由やいわゆる「不安の抗弁」など法的根拠が必要です。微妙なケースもあるでしょうから、やはり営業部門としては法務部門への第一報と状況確認を急ぐ必要があります。

「役割分担」ですが、先ほど説明したとおり営業部門としては、法務部門に大急ぎで第一報を入れること、取引先訪問などにより情報収集、状況把握に努めることが大事です。
法務部門としては、営業部門から第一報を受けた際に、情報収集のポイントを示し、出荷停止や納入済み商品の引揚げに関する注意点などを説明して営業部門に対応を依頼し、弁護士への相談日時をアレンジします。
保全・回収に向けた関係者との交渉も営業部門が前線に立って行う場合が多いでしょう。
法務部門としては、交渉上のポイント、経過を証拠化する方法について営業部門に説明します。
取引先の信用悪化時には、契約解除、相殺、担保権実行といった事項について取引先に通知書を送るケースがよくあります。こうした通知書の発送は営業担当者の単独判断で行うべきではありません。これらについては法律面の検討が不可欠であり、法務部門、弁護士が関与する必要があります。

取引先の信用悪化時の初動段階での対応をイメージして説明しました。
さて、営業から法務への情報提供が必要な事項、法務から営業への依頼・説明が必要な事項がそれぞれあるわけですが、両部門で認識を共通にしておくために、法務部門が営業担当者向けに簡単なマニュアルを作成しておくと効果的です。
マニュアル化にあたっては、定型的でない事態への対応がかえって難しくなるといった弊害が生じることもあります。企業の規模・組織体制、取引内容の実情にあわせた内容にすること、営業担当者からみてシンプルなルールブックにすること、といった視点をもってマニュアルを作成する必要があります。
完ぺきを目ざすあまり複雑なマニュアルにしてしまうと、結局、緊急時にどう対応すればよいのかわからなくなります。「この場合にはこう対応する」という行動ルールを難しい法律用語をつかわずに記述します。
法律の解釈にわたる事項はいわば法務マター、弁護士マターであり、営業担当者向けのマニュアルに盛りこむべきではありません。

はじめに申し上げたとおり、取引先の信用不安発生時には営業部門から法務部門への第一報の情報提供がとにかく大事です。ただ、ひとくちに信用不安といっても、具体的にどのような場合に信用不安を疑うべきかというレベルでは両部門の間で認識にズレがあるかもしれません。
簡単なマニュアルの例ですが、「営業担当者は次のようなケースでは大急ぎで上司と法務に報告すること」として、信用不安の兆候となる事項を一枚ものにリストアップしておくだけでも効果的です。
規則、マニュアルの類に常にいえることですが、「つくりっぱなし」ではダメです。社内で周知徹底することを忘れずに。マニュアルを参照資料として社内研修会の開催を検討するのもよいでしょう。

なお、本稿では便宜上、法務部門がある企業を念頭において執筆しました。
法務部がない企業であっても、営業部門から情報提供する相手先が総務部であったり顧問弁護士であったりするだけで、本質的なところでは上記で述べたことがあてはまります。