労基署が調査にやってきたら
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<ポイント>
◆監督官は、警察官と同様の権限
◆誠実に対応することが重要
◆「指導票」と「是正勧告書」の違い

労働基準監督署が調査にやってきたら会社としてはどのように対応すればよいのでしょうか。
一番やってはいけないことは、事実を隠したり喧嘩腰で対応したりすることです。
そもそも労働基準監督署による監督制度は、労働法令に違反する行為がそこで働く労働者に重大な被害を及ぼす前にそれを是正し労働法令を遵守させることを目的とする制度です。
労働基準監督官は、労働基準法違反の罪について警察官の職務を行います。具体的には、事業所等に赴いて、労働関係についての書類の提出を求めたり尋問を行ったりすることができますし、事件を検察庁に送致し(送検といいます。)、刑事事件として立件する権限を持ちます。
このように、労働基準監督官には、大きな権限がある点には注意が必要です。
ただ、労基署の主目的は刑事事件を立件することではなく、労働基準法違反を減らすことなのですから、誠実に対応していればよほど悪質な事案でないかぎりただちに送検ということにはなりません。
逆におかしな対応をとれば杓子定規に厳しい処理をされやすいといえます。

労働基準法違反とはいえないものの、改善したほうが望ましいと思われる事項や、後々労働法令の趣旨に望ましくない場合やこのまま放置すると違反につながる可能性がある事項については「指導票」が交付されます。この指導票には強制力はありませんが、監督官と可能な方法を相談しながら改善策をとることをお勧めします。
また、残業代の不払いなどの明らかな違法行為がある場合には、「是正勧告書」が交付されます。これは行政指導の一種でこれに従わないこと自体への罰則はありませんが、これを無視し続ければ、労働基準法に違反している状態が続くことになりますので、最悪の場合は、送検、起訴、刑事処分の対象となってしまいます。

もちろん、経営者には、例えば、「この基本給で残業代を全て払えば会社が倒産してしまう。」、「労基署に告発したのは、おそらくトラブルばかり起こしていたあの従業員で他の従業員もみなあの従業員には怒っている。」、など言いたいことはいろいろあるかもしれません。

しかし、ここで意識を集中しなければならないのは、改善すべき違法な行為はあるのかないのか、ということと、違法な行為があったとすれば、それはどのように(どの時点にまで遡って)是正すべきか、そのための手段はどうすればよいのか、という点です。
そして、そのためには、労基署の担当者とやみくもに対立するのではなく、労働法規を遵守すべきことはよく理解しており、この機会に改善すべきことは改善したいという姿勢を真摯に示すことが大切です。
そのうえで、会社の実情についても理解をしてもらい、実現可能なスキームを考えるのに協力してもらえることは協力してもらうというスタンスを取ることが重要です。
この観点から、まず提出を求められた資料は遅滞なく提出すること、提出期限はできる限り守り、業務の都合などで困難なときは具体的な日程を示していついつまで待ってもらうことができるか了解を得るようにすること、制度の改変などは勝手な判断で行わず監督官に相談するなどを徹底すべきです。

例えば、調査の対象で代表的なものは残業代の未払いですが、過去に賃金を支払わずにサービス残業をさせていた場合、法律上は時効消滅していない過去2年に遡って残業代を支払う必要があります。
しかし、調査が入ったきっかけが特定の従業員との紛争ではなく、労基署の巡回調査の一環であるのなら、直ちにシステムの運用を改めて反省の姿勢を示せば、遡る期間が3か月とか半年などでおおめに見られたり、今後是正することで労基署からは何も言われなかったりすることもあります。(もちろん労働者の請求があった場合は別個に対応しなければなりません。)
その反面、特定の従業員からの告発があったり、過去に類似ないし同一の事案で是正勧告命令が出ていたりする場合、違法行為があった場合には特に慎重な対応が必要となります。
特定の従業員からの告発があった場合で、その従業員の言い分がもっともな場合には、早急にその従業員と和解をすることが望ましいといえます。例えば、タイムカードや入退室の記録が残っていて残業代がそれよりも大幅に少ない場合には、残業はないと争っても不利な場合が多いので早期の和解が望ましいといえます。
また、過去の是正勧告と同じような事案で再度調査が入った場合で、こちらに是正すべき点が残っている場合には、特定の従業員との紛争がなくとも労基署はかなり強硬な姿勢をとってくると考えたほうがよいでしょう。
いずれにせよ、このような問題が発生したときは、専門家に相談して、通る主張と通らない主張をみきわめ合理的な対応を行うよう心掛けてください。