判例紹介 競業禁止特約の有効性を認めた裁判例
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<ポイント>
◆競業禁止特約の有効性は厳格に解される
◆必要性、制限の程度、代償措置などを総合考慮
◆本件では代償措置が重視されたと思われる

今回は、退職後の競業禁止特約の有効性を認めた判例(京都地裁 平成29年5月29日判決)をご紹介します。

労働者の競業避止特約は、憲法で保障されている労働者の職業選択の自由に対する重大な制約となるため、一般的にその有効性については厳格に解されています。
具体的には①労働者の地位・職務が競業避止義務を課すのにふさわしいものであること、②元使用者の正当な利益(営業秘密や情報等)の保護を目的とすること、③競業制限の対象職種・期間・地域から見て職業活動を不当に制限しないこと、④適切な代償措置の有無等を総合的に考慮して厳格・慎重に判断すべきとされています。
 
今回の事案は、従業員が、早期退職優遇制度に対して、家業を継ぐためとの理由で、早期退職優遇制度に応募し、退職後2年間は競業他社に雇用されないことを順守することを条件に、早期退職加算金が支払われる旨の退職合意書に署名捺印したにもかかわらず、退職直後に競業他社に就職した事案です。
なお、この従業員は、早期退職加算金として通常支払われる退職金のほかに約1590万円を受領しています。
会社は、この従業員に対し、この早期退職加算金の受領が詐欺によるものであるとして、返還請求を行いました。

これに対し、裁判所は、以下の理由により、競業禁止特約の有効性を認め、会社からの早期退職加算金全額の返還請求を認めました。
?競業制限理由は、会社の業務上の機密事項及び会社の不利益となる事項に関する一切の情報、会社の顧客その他会社と取引関係のある第三者の業務上の機密事項及び当該第三者の不利益となる事項に関する一切の情報の漏洩防止であるところ、当該社員のような役職のない社員であってもそのような情報に接する可能性は十分にあり、その漏洩を防止する必要性は肯定できる。?会社の顧客が日本全国にまたがっているから、機密情報保持のためには国内全域での競業禁止義務を課す必要がある。?その制限期間が退職日翌日から2年間であって、不当に長いとはいえない上、本件早期退職割増金は当時の従業員の年収額の2年分を優に超える額となっている。?さらに、当該従業員の背信性の程度は、一定の確信に基づいての行動と評価せざるを得ず、非常に強い。

判例を分析すると、本件については、会社から当該従業員への早期退職加算金の額が年収の2年分以上にもなる多額であったことと従業員が虚偽の退職理由を述べて退職したことが重視されて、競業禁止特約の有効性が認められたように思います。
今回の早期退職加算金と競業避止義務については必ずしも厳密な意味での対価性があるとは思われませんが、早期退職加算金を支払うにあたり、競業はしないという点が重要な条件であると判断されたものと思われます。
退職後の従業員の競業避止義務については、企業運営上非常に重要な問題ですが、判例がそれほど多いとはいえず、この判例も今後の参考になる事例だと考えます。

会社としては、特に役職等のない従業員に対し一般的包括的な競業避止義務を課す場合には、秘密手当等の名目で金銭を支払うなど一定の代償措置を講じることを検討することが有用であると思います。