内部通報制度の普及状況  消費者庁報告書から
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<ポイント>
◆大企業を中心として内部通報制度の導入はすすんできている
◆制度を導入するだけでなくいかに実効性あるものとするかが課題

ここまでの連載で内部通報制度の総論的な説明をしてきましたが、今回は制度の普及状況をみてみましょう。
消費者庁は本年6月25日に「公益通報者保護制度に関する実体調査報告書」を公表しました。報告書によると、アンケートに回答した3624社のうち内部通報制度を導入している企業は46.3%であったとのことです。
企業の規模ごとにみていくと、従業員数3000人超の企業では96.8%、従業員数1000人超3000人以内の企業では84.5%が内部通報制度を導入しているとの調査結果でした。
大企業を中心として内部通報制度の導入がすすんでいることがうかがわれます。

一方、従業員数50人超100人以内の企業では内部通報制度の導入率は22%、従業員数50人以内の企業では導入率10%とのことでした。
小規模な企業における内部通報制度の導入率としては意外と高い数値になっているようにも見受けられますが、やはり大企業ほどには中小企業には内部通報制度は普及していないといえます。
しかし中小企業においても内部通報制度は検討されるべきです。
コンプライアンス体制の一環として内部通報制度を導入することは取引先に対するアピールにもなります。大企業や自治体などは発注先に対しても一定のコンプライアンス体制の構築を要求するケースがすくなくありません。
コスト負担の観点も無視できませんが、たとえば複数企業で共同の通報窓口を設けることでコストをおさえることができます。協同組合などの中小企業団体が弁護士事務所に依頼して通報窓口を設置する方策もあります。このアイディアはぜひ検討しみてください。

すでに内部通報制度を導入している企業についてはどのようなことがいえるでしょうか。
内部通報制度を導入済みの企業1677社のうち最近1年間における実際の通報件数が「ゼロ件」と回答した企業が45.9%にのぼるとのことです。
今回の調査結果のなかで最も重大と考えられるポイントです。
通報ゼロ件であることはよろこぶべきことはありません。それは不正がないことを意味するのでは決してなく、内部通報制度が形骸化して機能していないことを意味しています。
思いかえしてみても、報道されるような重大な不祥事の事案は多くが内部告発によって発覚しており、内部通報制度が機能していなかったことをうかがわせます。

防衛省への架空請求が問題となった三菱電機では十数年前から内部通報制度を導入していたものの、防衛省から問い合わせを受けるまで架空請求問題を把握できていませんでした。
内部通報制度が形骸化していることについて定時株主総会で株主からも指摘があったとのことです。内部通報制度の形骸化については同社としても無視できなかったようで、架空請求事件に関する調査報告書のなかでこの点に言及するくだりがみられます。
三菱電機のようないわゆる大企業にあって内部通報制度を導入しない・廃止するということは現実的な選択肢としてありえませんが、制度を導入するだけで機能しないままにしていると、かえってマイナス評価につながるのです。

大企業を中心として内部通報制度はそれなりの割合で導入されるようになってきています。
また、新たに内部通報制度の導入を決める企業、団体も増えています。
問題が相次いでいた全日本柔道連盟は、改革の一環として内部通報制度を導入することを公表しました。
しかし、制度の導入はもちろん必要ですが、その先の課題として「実効性あるものとすること」こそが大事です。この点について私たちの経験、知識を読者の皆さまにお伝えしようとはじめたのが今回の連載です。