内部通報の体制整備を義務づける法改正が成立
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<ポイント>
◆一定規模の企業では内部通報に関する体制整備が義務に
◆通報者特定につながる情報につき守秘義務が法定化
◆役員、退職者からの通報にも対応する必要

先日閉会した通常国会で公益通報者保護法改正が成立しました。内部通報への対応について一定規模の企業に体制整備を義務付けるなどの内容です。
2018年12月に公表された「公益通報者保護専門調査会報告書」に概ね沿った改正内容です。
(2019年7月1日の掲載記事「内部通報制度導入が法的義務になる?」をご参照ください。)
主要な改正項目をみていきます。

1 内部通報に関する体制整備などの義務化
従業員300人超の事業者には、内部通報に対応するための体制整備や、内部通報窓口の設置、通報後の調査や是正措置を行う担当者をおくことが義務づけられます。
義務違反の事業者に対しては官庁による指導、勧告、公表といった行政措置があります。
必要な体制整備の具体的については今後指針が定められますが、「公益通報者保護専門調査会報告書」によれば、内部通報窓口の設置と社内での周知、通報者に関する情報の扱い方など想定されています。
なお、従業員数300人以下の事業者には努力義務が課されます。

2 守秘義務の法定化
内部通報窓口、通報後の調査や是正措置を行う担当者には、通報者の特定につながる情報に関する守秘義務が法定化され、違反には刑事罰(罰金)もあります。
情報開示に関する「正当な理由」の有無により守秘義務違反となるかどうかが左右されますが、法文法は「正当な理由」の意義は示されていません。
これについては、国会の附帯決議により、上記1の指針に合わせて政府の考え方が示されるべきこととされています。

3 外部通報の要件緩和
行政機関や報道機関などへの社外通報(つまり内部告発)の保護要件が緩和されます。
企業にとっても無関係なことではなく、内部通報をしやすいように社内の体制整備をしておかないと内部告発を誘発することになります。
内部告発があると「社内の自浄作用が働いていないこと」が世間に露呈するため、企業にとっては大きな損失が生じます。

4 通報者保護の拡張(特に役員、退職者による通報について)
現職の従業員のほかに、退職後1年以内の退職者、役員も公益通報者として保護されることとなりました。すでに内部通報制度を導入している企業にとっても対応が必要となるであろう改正項目です。
この他の改正として、公益通報となる対象事実の範囲拡大(行政罰の対象事案も公益通報となる)、公益通報を理由として企業が通報者へ損害賠償請求できないことの条文化があります。後者は確認的な改正です。

既に内部通報制度を導入している企業もこれらの法改正への対応が必要です。
退職者による通報にまで対応する制度設計にはしていないことが一般的であろうと思います。
また、内部通報窓口や調査担当者の守秘義務は従来も社内規程上の義務としては一般的でしたが、今後は罰則を伴う法律上の義務となります。今後示される指針をふまえて社内での対応が必要です。

改正法は公布日から2年以内に施行されることになっており、指針も施行日までに公表されると想定されます。施行までに社内の体制を整えていきましょう。