公益通報者保護制度

現在、国会において、企業の不正を内部告発した労働者を解雇などの不利益から保護する「公益通報者保護法」制定の動きがあります。関係政令や窓口の整備など約2年間の準備期間を経て、早ければ平成18年春にも施行される見込みです。
このような動きの背景には、食肉偽装事件や、鳥インフルエンザ問題など、企業の内部からの匿名の告発がきっかけで、初めて問題が明らかになる事例が続発していることが挙げられます。
この法案によって保護される「公益通報者」とは、企業の従業員・派遣労働者、下請企業の従業員、公務員などをいいます。
法案では、刑法などの法令に違反する行為を告発した者について、解雇の無効、降格や減給などの禁止、派遣契約解除の無効などのルールが設けられています。これは、労働者等が企業との関係では弱い立場にあることから、違法行為の告発により地位が脅かされないよう保証することにより、企業のコンプライアンス(法令遵守)を強化し、ひいては国民の生命・安全を守ろうというものです。もっとも、かかる規定に違反して告発者を解雇・降格等した企業に対する罰則は、現段階では盛り込まれていません。
告発先は勤務先企業、行政機関、マスコミなどですが、告発した労働者が保護される要件は、告発先によって異なります。
例えば、勤務先企業への告発の場合より、行政機関への告発の場合の方が、告発者が保護される要件が厳しくなっています。また、マスコミに対する告発はさらに厳しい要件が課されています。
これは、マスコミや行政機関のような第三者に告発する場合には、企業に与える影響が大きいため、企業に損害を与えようとする悪意のある告発者から企業を保護することを目的としていると考えられます。
食肉偽装事件や、鳥インフルエンザ問題などの事件が起こり、企業におけるモラルの低下が、国民の生命や安全を直撃するということが国民全体の認識になっています。内部から企業の腐敗を暴露させることにより、国民に重大な不利益が生じることを防止しようとする今回の法案は、近時の企業のコンプライアンスの強化の流れに沿ったものであり、早期の制定、施行が期待されます。