企業秘密の漏洩に刑事罰 ~不正競争防止法の改正~
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【企業秘密の漏洩に対する法規制】
不正競争防止法の一部を改正する法律が平成15年5月16日に成立し、製造技術やノウハウ、顧客名簿といった企業秘密(営業秘密)を漏洩するなどの行為をした者に3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科されることとなりました。改正法は平成16年1月1日から施行されます。
これまでも営業秘密の漏洩などの被害を受けた企業は加害者に対して民事上の損害賠償を請求することができました。
しかし、企業は民事上の損害賠償だけでは十分に保護されていないというのが実情です。経済産業省が実施したアンケートによれば企業の約2割が自社の営業秘密に関して何らかのトラブルを経験しています。
また、これまでは営業秘密の漏洩それ自体に刑罰を科す法律はありませんでした。
例えば、パソコン内のデータを会社のフロッピーディスクに取り込んで、これを外部に持ち出した場合、フロッピーディスクの窃盗罪として処罰することができます。ところが、自分が買ったフロッピーディスクにデータを取り込んで持ち出しても、物理的には何も盗んだことにはならないため、犯罪ではありませんでした。窃盗罪や横領罪は形あるもの(有体物)を不正に取得した場合だけを刑罰の対象にしていたからです。
そこで、営業秘密という、形のない情報そのもののを悪用し、漏洩する行為を処罰の対象としたのが今回の法改正です。
これにはいくつかのパターンがあります。一つずつ解説します。

【不正に取得した営業秘密を使用又は開示する罪】
まず、不正な手段で得た営業秘密を「使用」または「開示」することが犯罪とされました。
ライバル企業の産業スパイが研究施設に侵入して機密情報を盗み出し、自社製品の開発のために拝借するケースや、「ハッカー」がインターネットを通じて企業のコンピューターに不正に侵入して機密情報を引き出し、ライバル企業に売却するケースなどがこれにあたります。
つまり、(1)詐欺・暴行・脅迫、(2)書面やフロッピー、CD-R、MOなどの窃取、(3)施設への侵入、または(4)不正なアクセスによって取得した営業秘密を、不正の競争の目的で、使用又は開示することが処罰の対象となります(3年以下の懲役または300万円以下の罰金、以下のパターンも全て同様の刑罰)。
法律がわざわざ「不正の競争の目的で」という限定を加えているのは、企業間の公正な競争を妨げるような悪質な行為に限って処罰の対象とするためです。

【不正な目的でコピーを取るだけでも罪となりうる】
また不正な競争の目的で「使用」・「開示」するために、書面やフロッピーディスク等の記録媒体を取得したりコピーをとったりすること自体も「準備罪」として処罰の対象となります。現に使用、開示に至っていなくても、実行される危険性が高いため、取り返しがつかない状態になるのを未然に防ぐのが目的です。

【元々は正当に知りえたときも処罰されうる】
営業秘密にアクセスすることが元々許されていても、秘密を悪用するために、記録媒体の原本やコピーを持ち去り、またはメールで送信するなどして、その後に「使用」または「開示」することも処罰されます。

【役員・従業者は処罰の範囲が広い】
企業の役員や従業員であれば、記録媒体の原本やコピーの持ち去りのみならず、営業秘密の管理の任務に背く行為であると判断される限り、処罰の対象となります。したがって、単に記憶しておいて、これを外部に知らせるなどの行為も含まれます。

【告訴が必要】
なお、これらの犯罪は被害企業の告訴があって初めて処罰することができます。刑事訴訟の裁判は公開が原則ですから、その中で営業秘密が公になることがありえます。そのために、加害者を処罰するかどうかを被害企業の判断にかからせています。

【まとめ】
以上のように、営業秘密をめぐる刑罰法規が整備されました。これによって企業が公正に競争するための重要な条件が整ったと言えますが、反面で企業活動に携わる者は企業秘密の扱いにこれまで以上に慎重にならざるを得なくなります。これまでであれば最悪でも損害賠償の支払で済んでいたところが、刑務所行きを命ぜられるケースも増えることとなるでしょう。