人材と競争政策に関する検討会報告書について(3)

<ポイント>
◆人材に支払う対価に係る企業間の取決めは原則独禁法上問題あり
◆移籍・転職に関する企業間の取決めも独禁法上問題となる場合がある
◆事業者団体が資格・基準を取り決めることは例外的に問題となる

報告書の「共同行為に対する独占禁止法の適用」について説明します。

1 「役務提供者(人材)に対して支払う対価」に係る取決め
賃金、報酬、委託料など企業が人材に支払う対価について、複数の企業が共同してこの対価を取り決めることは原則、独占禁止法上問題となります。価格(対価)は人材獲得におけるもっとも重要な競争手段だからです。
その取決めにより対価を「競争により定まる水準」より引き下げる方向に働けば、商品やサービスの価格低下をもたらすことは理論上あり得ても、それによっても原則として独占禁止法上、問題となります。

2 「移籍・転職」に係る取決め
複数の企業が共同して人材の移籍・転職を制限する内容を取り決めることは、独占禁止法上、問題となる場合があります。直接制限しなくても一定の不利益を課す場合も当てはまります。
また、契約の期間の上限や下限を複数の企業が共同して取り決めることで、人材を拘束する期間が同一となる場合、人材獲得競争を回避・停止することになり得ます。
他方で、移籍・転職に関する取決めは、人材育成に要した費用を回収する目的で行われているという企業側の主張があります。ただ、報告書は、複数企業が共同で移籍・転職を制限する取決めをする場合は、通常は、育成費用回収の目的を達成する手段として他に適切な手段が存在しないことはないと考えられる、としています。
また、スポーツのプロリーグにおいて、複数のクラブチームが共同して選手の移籍を制限することは、プロリーグの魅力を高め、レベルアップを目的としている、との主張もあります。この場合、その制限がレベルアップに不可欠か、競争を促進する効果が、阻害する効果を上回るのか、他の制限的でない手段がないのかを考慮して判断されるとしています。

3 役務提供者(人材)に求められる資格・基準を取り決めること
事業者団体などで、一定の商品・サービスの供給に必要な人材について自主的な資格・基準を定めることは、通常、独占禁止法上問題とはならないものの、その内容・態様により問題となる場合があります。その資格・基準を満たす人材が十分確保できない企業にとっては事業が困難となり、競争を阻害し得るからです。
競争を阻害するかどうかは、
(1)商品・サービス市場の需要者の利益を不当に害しないか
(2)企業間で不当に差別的なものでないか
との判断基準に照らし、
(3)社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか
という要素を勘案しつつ判断される、としています。

4 発注者(使用者間)(企業)間の情報交換
人材獲得活動のため企業間で過去の情報や客観的な情報について情報交換が行われ、それが現在・将来の価格について共通の目安を与えるものではない場合、直ちに独占禁止法上の問題となるものではないが、それを通じて1~3の行為に関する事実上の合意がされた場合は、独占禁止法上問題となります。