不競法5条3項における使用許諾料相当損害額の高額化(マリカー事件知財高裁判決)
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◆不正競争防止法5条3項に基づく損害の算定に当たって、不正競争行為をした者に対して事後的に定められる、使用に対し受けるべき料率は、通常の料率に比べて高額になる
◆当該事案において、「maricar」を含む本件各ドメイン名を使用している店舗の売上げに係る料率は15%とし、本件各ドメイン名を使用していない店舗の売上げに係る料率を12%とした

1 本件は、平成4年8月に第1作目を発売した「マリオカート」シリーズのゲームに関する事件として、注目を集めた事件です。被告は、観光客等にマリオやその他ゲーム内キャラクターのコスチュームを貸与するなどして、公道上でカートを運転させるサービスを提供していました。
平成30年9月27日東京地裁判決がなされ、控訴審である知財高裁で侵害論についての中間判決がなされていました。今回紹介する判決は知財高裁での損害論に関する判決です。
知財高裁でも、ゲームソフトを販売していた一審原告は、1)周知又は著名な商品等表示であるマリオカート及びマリカーと類似する標章などの一審被告による営業上の使用行為や、宣伝広告への掲載、コスチューム着用行為などが、不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当し、2)一審原告の特定商品等表示である原告文字表示と類似する「maricar」を含む本件各ドメイン名の使用が、不競法2条1項13号の不正競争行為に該当するなどとして、一審被告らに対する使用差止めを求めるとともに損害賠償を求めた事案です。
本稿では損害賠償請求額の話に限ります。一審原告は、損害額については一部請求として5000万円のみを請求しました。不競法5条3項に基づく使用許諾料相当損害額の請求です。
2 もともと不競法5条では、「『通常』受けるべき金銭の額」と規定されていましたが、平成15年改正時に、「通常受けるべき金銭の額」では、侵害のし得になってしまうとして「通常」の言葉が削除された経緯があります。
この判決の前になされた大合議事件判決(知財高裁令和元年6月7日判決)でも、特許法102条3項についても同様の判断をし、使用許諾料相当損害額を高額化する判断がなされていました(特許法では平成10年改正により「通常受けるべき金銭の額」の「通常」の部分が削除されていました)。
3 今回の知財高裁は、こうした経緯も踏まえてなされたものです。判決では、「不競法5条3項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該商品等表示についての許諾契約における料率に基づかなければならない必然性はない。不正競争行為をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の料率に比べて自ずと高額になるというべきである。」とし、そのうえで「不競法5条3項に基づく損害の算定に用いる、実施に対し受けるべき料率は、a)当該商品等表示の実際の許諾契約における料率や、それが明らかでない場合には業界における料率の相場等も考慮に入れつつ、b)当該商品等表示の持つ顧客吸引力の高さ、c)不正競争行為の態様並びに当該商品等表示又はそれに類似する表示の不正競争行為を行った者の売上げ及び利益への貢献の度合い、d)当該商品等表示の主体と不正競争行為を行った者との関係など訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。」としました。
本件においては、「maricar」を含む本件各ドメイン名を使用している店舗の売上げに係る料率は15%とし、本件各ドメイン名を使用していないその他の店舗の売上げに係る料率は12%とするのが相当である、として高めの実施料率が認定されていました。
4 マリオは、平成28年8月に開催されたリオ五輪の閉会式では、安倍晋三首相がマリオのコスチュームを着用して登場し、東京五輪のアピールを行うなど、著名なキャラクターです。本件は、こうしたマリオに関する営業表示や著作物、その商標や営業活動について、フリーライドの目的が明確といえた特殊性のある事案とも言えます。しかし、これまでの裁判例でも認定される料率は高くて5%くらいと思われ、本判決のような15%は、従前の水準と比較しても高い料率と言えます。知的財産権の保護をより重視した知財高裁の姿勢がみられる判決ではないかと考えます。

参考
■マリカー事件
原 審:東京地方裁判所平成30年9月27日判決
(平成29年(ワ)第6293号)
控訴審:知財高裁令和元年5月30日中間判決
:知財高裁令和2年1月29日判決
(平成30年(ネ)第10081号、平成30年(ネ)第10091号)
■特許権に関する大合議事件判決
知財高裁令和元年6月7日判決
(平成30年(ネ)第10063号)