下請代金の減額など下請法に違反する事例

<ポイント>
◆下請代金の減額禁止違反の勧告事例が14件
◆親事業者、下請事業者とも下請法の理解が重要

公正取引委員会は今年、平成23年に、下請法違反の事実があったとして15件の勧告(12月12日現在)を実施しました。

下請法(正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」)は、下請代金の支払い遅延や、減額などに公正取引委員会が関与して防ぐための法律です。
独占禁止法上の「優越的地位の濫用」規制を補助する法律であり、資本金額に一定の格差がある企業の一方を「親事業者」、他方を「下請事業者」と定義して、その間の取引を適正なものにするのが目的です。

資本金3億円超の「親事業者」に対して、その相手方が資本金3億円以下ならば「下請事業者」になります。資本金1000万円超3億円以下の「親事業者」に対しては、資本金1000万円以下が「下請事業者」です。
プログラム作成など「情報成果物作成委託」や、運送やビルメンテナンスなど「役務(サービス)提供委託」の場合は、「親事業者」資本金5千万円超に対し、資本金5千万円以下が「下請事業者」となります。「親事業者」資本金1千万円超5000万円以下ならば、資本金1千万円以下で「下請事業者」となります。
いずれの場合も個人企業なら常に「下請事業者」となりえます。

「下請」という言葉からすれば、例えば建築工事の元請、下請を連想しますが、これらは対象外です。
本法が規制するのは「委託」取引に限られています。つまり、ある事業者が、自ら品質、形状、規格、性能、デザイン等を定めて他の事業者に製造を依頼するような場合の取引に限られます。
委託する内容には物の製造や修理のほか、情報成果物作成の委託、役務提供の委託があります。

親事業者には契約書の交付などが義務付けられる一方で、種々の禁止事項が課せられています。
今年勧告のあった15件を見ますと、1件を除いた14件全てが「下請代金の減額の禁止」規定に違反する事実があったとされています。
本法律4条1項3号が禁止しているのは、発注時に決まった代金額を発注後に減額することです。もちろん、下請事業者に責めに帰すべき理由がないにもかかわらず減額するというケースです。
勧告のあった事例を見ますと、親事業者の動機は「自社のコストを削減するため」、「自社の店頭販売価格を引き下げることによる利益の減少分を補うため」、「自社の利益を確保するため」などいろいろあります。
減額の名目も「販促協賛」、「消化促進値引き」、「割戻金」、「事務手数料」、「金利手数料」、「口銭」、「手数料」「歩引き」など様々です。
しかし、いずれのケースでもいえることは、発注時に代金が決まっていたにもかかわらず、その後に下請事業者に責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、下請代金の一定割合額、あるいは一定の額を負担するよう下請事業者に要請し、下請事業者にその要請を応じさせています。名目上の代金額そのものを減額したのではありませんが、実質は減額そのものです。当然といえば当然ですが、名目がどうであれ、一旦決まった金額について実質的に減額となるような要請をし、これに応じさせていはいけない、ということになります。
これも当然のことですが、親事業者の優越的地位をバックにさせた約束ですので、下請事業者が拒否しなかった、ということが下請法違反でない理由にはなりません。

なお、その他の1件は、自社が開催する展示会のための費用を提供させるため、「PB(プライベートブランド)特別ご協賛」を下請事業者に負担させたという「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」違反の事例です。その費用の算出根拠と、下請事業者が得られる利益との関係が明らかでないことから不当とされます。
また14件のうち1件(1社)は「下請代金の減額の禁止」、「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」と併せて「返品の禁止」に違反する事実があったとされています。

公正取引委員会はこれら違反事例に対して、減額分を下請事業者に返還することや、あるいは勧告前に返還があったケースでは、今後下請代金を減額しないと取締役会で決議し、社内や取引先下請事業者に周知させることなどを勧告しています。このような勧告がなされたことは公取委のホームページで会社名と共に公表されています。
これら正式な勧告に至らない「指導」のケースも、平成23年上半期で2,714件(下請法違反全体で。半期の数としては過去最多)あったことが公取委から公表されています。公取委の勧告または指導により、36名の親事業者から1,469社に対し合計4億8,165万円が返還されたということです(同じく平成23年上半期)。

親事業者サイドからすれば、調達部門に下請法の趣旨が徹底しておらず、あるいは名目を変えることで違法性から逃れられるとの誤った認識のもとに、下請法違反の減額がなされる危険性は十分にあります。
他方で下請事業者サイドからすれば、不当な要求があった場合、相手方の違法性を指摘することで是正を求める必要があります。
今の厳しい経済状況下では、同じような違反事例が起きる下地は十分にあり、下請法の趣旨をよく理解しておくことがいずれの立場にとっても重要です。