上場会社の公募増資がより機動的に
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<ポイント>
◆周知性が高い企業等については、有価証券届出書提出と同時に発行価格決定が可能に
◆有価証券届出書提出前の需要調査も可能に
◆インサイダー取引規制の強化が規制緩和を導く

2013年12月5日の日経新聞に、金融庁は、上場企業が機動的に増資できるように、一定条件をみたす公募増資の場合には有価証券届出書(本稿では単に「届出書」といいます)提出と同時に発行価格を決定でき、また、届出書提出前に機関投資家等に対するプレ・ヒアリングができるようにする予定であるとの記事が掲載されていました。
プレ・ヒアリングとは、企業・引受証券会社が有価証券の募集・売出しの是非や価格を判断するために、募集・売出しに係る有価証券に対する市場における需要見込みを届出書提出前に調査することです。現在は、後述のとおり証券業協会により禁止されています。
その後、同月25日に金融審議会の「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」報告書が公表され、同報告書にも同じ内容が記載されています。なお、同報告書は公募増資だけではなく投資証券〈REITなど〉に関しても言及していますが本稿では割愛します。

一般の上場企業が公募増資をする際には、届出書を提出した後、最短でも7日間は投資家に新株を取得させる行為(取得契約の締結)が禁止されています(この期間を一般に「待機期間」といいます)。
届出書には新株の発行価格(募集価格)は未定と記載(条件決定日の終値の0.9倍から1倍等と注記)されます。そして、待機期間の間に投資家に対する需要調査等が行われ、注記された範囲内で発行価格が決定されます。
また、届出書提出前の新株の取得勧誘等はできません(届出前勧誘の禁止)。
これらは金融商品取引法等による規制ですが、おおまかにいって、投資家が熟慮できる期間を確保し、不確実な情報により新株取得を強いられることを防止するためといわれています。

しかし、待機期間について以下のような弊害が指摘されています。
届出書を提出すると公募増資をする会社(発行会社といいます)はそれを開示します。
公募増資がされる場合、発行会社は自社株の市場価値が割高と考えていると想像される、一株当たりの価値が下がる可能性がある(希釈化)等の原因で株価が下がることが多いのですが、そのような傾向を利用して利益を得ようとする待機期間中の株の空売りにより、発行会社の株価が急激に下落することがあります。
金融庁の調査では2013年度中の15社のサンプルからは届出書提出日の終値と発行価格決定日の終値では平均約12パーセントの株価の下落が見られたということであり、これは増資が無駄になった(増資分の資産を何らの利益なく失った)ことを想定して計算した価格より約3%低いということになるそうです。
このような状態は必要以上に発行会社の株価が下落している可能性があり、発行会社は必要な資金調達ができなくなるとか、発行会社の既存株主も株価の下落による不利益を受ける等の弊害があると指摘されています。
そのため、金融庁は特に周知性の高い企業(時価総額1000億円以上などの一定の条件を満たした企業)による等限定された公募増資については待機期間を撤廃しようとしています。
待機期間が撤廃されると、発行会社は、公募増資が開示された後の空売り等による発行価格への影響を排して、後述のプレ・ヒアリング等の投資家に対する事前の需要調査により、届出書の提出時点で発行価格を決定することが可能になります。
このように限定された場合のみ待機期間を撤廃しようとしているのは、それ以外では個人投資家による公募増資の引き受けが多い我が国では投資家が熟慮できる期間の必要性が認められるからとされています。

プレ・ヒアリングは、「届出前勧誘」に該当しなければ金融商品取引法に違反しませんし、募集・売出しの是非や価格の決定のために有用であると考えられています。
しかし、現状では、禁止されている「届出前勧誘」の内容・範囲が明確ではないことから、日本証券業協会の自主ルールにより、引き受けを伴う国内募集についてプレ・ヒアリングを行うことが禁止されています。
プレ・ヒアリングが禁止されている理由の一つに、インサイダー取引を誘う懸念があることが挙げられています。
確かに、プレ・ヒアリングにより公募増資の情報がヒアリングの対象者に伝達される可能性はあり、2012年に社会的注目を集めた公募増資インサイダー事件が思い出されるところです。
しかし、この事件を契機として不正な情報伝達もインサイダー取引規制の対象となりました(施行は2014年4月1日予定)ので、プレ・ヒアリングのヒアリング対象者による情報伝達はインサイダー取引規制の対象となります。
上記日経新聞でも、プレ・ヒアリングの解禁はインザイダー取引の防止策が整ったと判断したためとの記事もありました。
なお、不正な情報伝達については拙稿「インサイダー取引規制に不正な情報伝達・取引推奨が追加されました」( https://www.eiko.gr.jp/lawtag/ikeda/ の2013年8月1日の記事)をご覧ください。
さらに、金融庁は、公募増資の情報がヒアリング対象者以外に伝達されないための適切な措置を講じていることを必要とすることにするようです。具体的には調査対象者に対して、インサイダー取引を行わないこと及び他に情報を提供しないことを約させる、調査担当者・調査対象者の名称、提供した情報の内容等を保存するために必要な措置を講じる等を考えているようです。
金融庁はこれらの適切な措置を講じている場合には、ガイドラインの改正によりプレ・ヒアリングが「届出前勧誘」に該当しないことを明確化するようです。そうすれば、上記自主ルールの改正によりプレ・ヒアリングが解禁されることになります。