レックスの株式取得価格決定(東京高裁)
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「牛角」などを経営する株式会社レックス・ホールディングスのMBOをめぐる株主からの株式取得価格決定申立事件について、東京高裁の決定が2008年9月12日にありました。この事件では、東京地裁がレックス側の主張する価格を認める決定を2007年12月20日にしていましたが、東京高裁はその価格を大幅に増額する決定をしました。

ナスダックに上場していたレックスは、業績不振のために上場を廃止し、ファンドの協力を得て事業を立て直すことにしました。
そのため、市場で取引されていたすべての発行済み株式をファンドに取得させることにしました。
その手段として三角合併(株式交換も含まれます。詳細は当職執筆の法律情報「三角合併をめぐる状況」をご参照ください。)による方法もありますが、レックスは発行済み株式に全部取得条項を付ける方法を選択しました。
全部取得条項とは、会社が株主から強制的に株式を全部取得するという条項です。このような条項は株主に不利益をこうむらせるおそれがあるので、株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要になります。ファンドやレックスの経営陣などは3分の2以上の株式をもっていなかったため、まずはファンドが公開買付け(TOB)を行い、応募株主から1株23万円で購入して特別決議に必要な株式数を獲得しました。そのうえでレックスは発行済み株式に全部取得条項を付ける特別決議をしました。

会社が全部取得条項に基づいて株式を取得する場合、その見返りとして株主に対価を提供しなければなりません。
レックスは新株を発行し、これを株式取得の対価として提供するとの株主総会決議をしました。
ただ、その内容は、発行済み株式約2万2000株に対して新株1株を発行するというものであったため、新株は12株、すなわちファンドに11株、その他の株主全員に1株しか発行しないということでした。
そうするとファンド以外の株主が有するそれぞれの株式は一株に満たない端数となるため、会社法の規定により、その端数の合計、つまり、ファンド以外の株主全員で取得すべき新株1株が売却されることとなります。その新株1株をファンドが買えば、レックスの発行する全部の株式をファンドが保有することになり、ファンド以外の株主全員は新株1株の代金についてそれぞれ分配を受けるだけとなります。
このスキームにおいては、反対する株主の利益を保護するために、株主が裁判所に対し、会社が取得する株式(全部取得条項が付けられた株式)の適正な取得価格の決定を求めることができると会社法上定められています。
そこで、レックスのファンド以外の株主が裁判所に対してレックス株の取得価格の決定を求めたというのが本件です。

東京高裁の決定は、レックスがこのスキーム実行に向けて準備をしていた際、業績予想の下方修正のプレスリリースをしたことを重視しました。
上場会社株式の適正な取得価格の決定では市場価格が重要な要素となるところ、このプレスリリースによって市場が過剰に反応して株価が下落したことを認定しました。
そして、上記TOB価格である23万円は、このプレスリリース後の価格に一定のプレミアム(上乗せ)をしたのだから適正ではなく、TOBが公表された日(上記プレスリリースの約3カ月後)の前日までの6ヶ月間の市場価格の平均値28万0805円に、株主が分配を受けるべきである株価上昇分として20%のプレミアムを認めて33万6966円をもって適正な価格であると決定しました。
この決定は、6ヶ月間という比較的長期の市場価格の平均値に加えて、「裁判所が・・・強制的取得により失われる今後の株価の上昇に対する期待を評価した価額をも考慮するのが相当である」として裁量によって20%のプレミアムを認めたことに特徴があります。
なお、裁判所は、レックスが株価算定評価書や事業計画を提出しないことを非難して、上記裁量による決定をしたとしています。

本件は、カネボウの株式買取価格決定事件(当職執筆の法律情報「カネボウの株式買取価格決定事件について」をご参照ください。)に次いで、会社が決定したTOB価格が不適正であるとした事件です。
通常、TOB価格の算定は利害関係のない公認会計士の意見を参考にするものであり、それによって適正性は担保されていると考えられてきました。
しかし、本件においては、TOBの発表の前になされた業績の下方修正の公表について、それが相場操縦のような不合理なものではなく企業会計上の裁量の範囲内であることは認めつつ、その必要性について疑問を投げかけて、その公表後の市場価格だけでは不公平であるとしたものといえます。
レックスはこの高裁決定を不服として、9月17日までに最高裁判所に特別抗告の申立てをしたということです。最高裁の決定が待たれるところです。
なお、9月18日の日経新聞によると、MBOをしようとする経営陣(=会社)が行う株式の価格決定に際して、社外役員等による第三者委員会を設置して諮問する例が増えてきているということです。