ヤマダ電機によるベスト電器の株式取得に関する公取委の審査

<ポイント>
◆ヤマダ電機がベスト電器株式の過半数を取得する計画を公取委が審査
◆253の地域のうち10地域が「競争の実質的制限」の蓋然性
◆8店舗譲渡を条件に「排除措置命令を行わない旨」の通知

家電量販最大手のヤマダ電機がベスト電器の株式を過半数取得することにつき、公正取引員会は届出のあった計画を審査、昨年12月10日、10地域における8店舗譲渡を条件に「排除措置命令を行わない旨の通知」を行い、その結論を発表しました。

独占禁止法は「会社は、他の会社の株式を取得し、又は所有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得し、又は所有してはなら」ないと定めています。
株式保有により、市場での競争が減り、ある程度自由に価格などを左右して市場を支配することができるような状況がもたらされるのを防ぐための規定です。
そのため独禁法は、会社の合併などの他の企業結合と同様、株式取得の場合も、それが「一定の取引分野」での競争を実質的に制限することとなるか否かを審査するため、株式取得の計画について公取委に事前に届出することを一定の範囲で義務付けています。
届出が義務付けられるのは、株式を取得する会社が属する企業結合集団(独禁法10条2項)の国内売上高合計額が200億円を超え、株式を取得される会社(及びその子会社)の国内売上高合計額が50億円を超えるときで、株式取得後の議決権数の割合が20%(20%以下→20~50%となるとき)または50%(50%以下→50%以上となるとき)を超えるときです。
ヤマダ、ベストの国内売上高は基準額を超え、ヤマダはベストの過半数の株式取得を計画していたことから、公取委にその計画の届出をしました。

公取委は昨年6月7日に届出を受理して、第1次審査を開始し、より詳細な審査が必要と判断、7月6日にヤマダに対し報告、情報、資料の提出を要請しました。
そして公取委は7月13日、本件で第2次審査を開始したこと、また第三者からの意見書を受け付けることを公表しました。
ちなみに本件は7月12日に報道され、ヤマダ・ベストによる正式な発表はその翌日である7月13日にされています。

さて公取委が審査したのは本件株式取得が「一定の取引分野における」「競争を実質的に制限することとなる」か否かという点です。
その審査は公取委のガイドライン「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(企業結合ガイドライン)に則ってなされています。

本件において公取委は同ガイドラインに基づき「一定の取引分野」(市場)をサービスの範囲と地理的な範囲によって画定させています。
まず、家電製品を扱う小売業者には、家電量販店のほかにも、スーパー、ホームセンター、ディスカウントストア、地域家電小売店、通販事業者が存在するものの、家電量販店とそのほかでは、品ぞろえや販売方法が異なっているため、家電量販店同士が他店を競争相手として価格設定し、消費者も家電量販店間で価格等を比較している実態があるとしています。このことから家電量販店とそのほかとでは代替性は低いと認め、サービスの範囲を「家電量販店における家電小売業」と画定しました。
また家電量販店間の競争は店舗ごとに行われ、消費者の買い回りの範囲から、概ね「店舗から半径10キロメートル」が標準的な商圏であるとみて、そのとおり「地理的範囲」を画定しました。

そして本件株式取得が「競争を実質的に制限することとなる」か否かについて、公取委はガイドラインが列挙する判断要素の検討を踏まえ、概ね次のような評価をしました。

前記のとおり一定の取引分野(市場)を画定すると、ヤマダとベストが他店と、あるいは現時点でお互いと競合している地域は253地域存在する。
このうち243の地域においては、ヤマダが競争相手として注視する店舗がベスト以外の店舗であって競争圧力が強いか、あるいはベストを競争相手として注視していても、同一地域内あるいは隣接地域内に競争事業者が存在し、本件株式取得後であっても、引き続き活発な競争が展開されることが想定される。
ベストが経営不振であること、地域によっては他店の具体的な参入圧力があること、通販事業者からの一定の競争圧力があることも併せて考えれば、本件株式取得によって、競争が実質的に制限されることとはならない。
(つまり、ヤマダとベストの競争がなくなっても、依然として競争は活発に行われる。)
他方、そのほかの10地域においては、ヤマダはベストを競争相手として注視しており、同一地域内または隣接地域内に競争力を有する競争事業者の存在は認められず、顕在的な参入圧力もない。通販事業者からの一定の競争圧力を考えても、本件株式取得によって、当該地域内(地理的範囲)における競争が実質的に制限されることなる。
(つまり、当該地域内においてヤマダとベストの競争がなくなれば、競争は減って、実質ヤマダが価格などをある程度自由に決められることになり、市場支配が行われる蓋然性がある)。

これに対してヤマダから「問題解消措置」として、10地域にあるヤマダかベストの8店舗を第三者に平成25年6月30日までに譲渡する、もし間に合わなければ入札手続きを行うなどの申し出があり、公取委はこれを適切な措置と評価しました。
なお、本件株式取得(ベストによる第三者割当増資をヤマダが121億円で引受け)はさっそく12月13日に実行されており、店舗の譲渡はその後になりますが、期限が半年後と明確に定められていることなどから、公取委はこれを適切と評価しています。