ヤフー・グーグル提携 公取委見解は妥当か?

<ポイント>
◆独禁法は競争によるシェア拡大自体は禁止していない
◆競争を妨げる具体的な行為があれば独禁法違反の問題を生じる

ヤフーがグーグルからインターネット検索エンジンや検索連動型広告システムの技術提供を受けることについては、この分野におけるグーグルの日本国内シェアが90%超となるため各方面で意見が交わされています。
独禁法との関係では、公正取引委員会は今年(2010年)7月に「現時点では独禁法上の問題はない」との見解を示していましたが、さらに12月2日付けで公取委はこの問題に関する調査結果を公表しています。
公取委の調査結果は7月時点と同様に「ただちには独禁法違反とはいえない」としつつ、今後の状況をチェックしていく必要があるとして、この問題に関する情報収集用の専用メールアドレスを設定しています。

現時点では独禁法違反ではないとした公取委の見解に対しては批判的な評価も多くみられるところですが、独禁法という法律の解釈・適用の問題としては、公取委の対応は致し方ないものと考えられます。

公取委の対応に批判的な見解は、検索エンジンや検索連動型広告システムの分野においてグーグルの技術が占める国内シェアが90%超にもなることを重くみるものです。
たしかに、独禁法を考えるうえでは対象企業のシェアがどれだけかというのは非常に重要なファクターです。

しかし、その一方で、独禁法は企業間の競争の結果として一部企業のシェアが拡大していくこと自体は否定していません。独禁法は、経済の活性化のために競争促進することを目的としているのであり、競争によるシェア拡大を否定することは、すなわち競争自体の否定であり独禁法の目的に反してしまいます。

たとえばカルテルの事案でも、公取委は摘発すべきかどうかの判断にあたって対象企業の合計シェアがどれだけかを考慮要素にしているようですが、シェアが大きいだけでなく「複数企業間で価格を拘束し合った」という具体的な行為があるからこそ、不当な取引制限として独禁法違反になるのです。
シェアが大きいだけでは違反にはなりません。

競争を妨げる具体的な行為を問題とせずに公取委がアクションを起こすことがありうるケースとしては「独占的状態」といわれるものがあります。ただ、これは要件がかなりきびしく、これまでに「独占的状態」解消のために公取委の権限が発動されたことはありません。
今回の提携でグーグルの検索エンジン技術における国内シェアが90%超になっても「独占的状態」の要件までは充足しないと考えられます。

極限的な場合でのみ問題となる「独占的状態」をのぞけば、独禁法の規制は、競争を妨げる具体的な行為を問題とするものです。この点にも、競争の結果として一部企業のシェアが拡大していくことを独禁法が禁じていないことが示されています。
ただし、シェアが大きくなった企業が価格操作など競争を妨げる行為にでれば、そうした具体的な行為が独禁法違反にならないか問題となります。

こうした観点で公取委の調査結果について考えてみます。
公取委が現時点でヤフー・グーグルの技術提携は独禁法違反でないとしたのは、主につぎの2点の根拠によるものです。

(根拠1)
ヤフーがグーグルとマイクロソフトのいずれの検索エンジンを採用するのか比較検討したうえで前者を採用するにいたったこと。

(根拠2)
ヤフーとグーグルの説明によれば、両社は技術提携した後も検索エンジン、ネット広告の分野でそれぞれ独自のサービス、営業活動を行っていくものとされており、広告価格などについて協調的な行動をとっているとはいえないこと。

根拠1は、グーグルとマイクロソフトが競争し、これにグーグルが勝利した結果として同社のシェアが拡大したことを指摘するものです。
競争の結果としてのシェア拡大を独禁法が禁じていない、という上記の基本理念です。

ただし、独禁法は競争によるシェア拡大自体は否定しないものの、競争を妨げる具体的な行為があれば独禁法違反のうたがいを生じます。根拠2はこの点に関係しています。
公取委は、ひとまず現時点ではグーグル・ヤフー間で競争が維持されているとし、具体的な違反行為までは認定できないとしているのです。

根拠2に関する公取委の調査結果は「グーグル・ヤフーの説明が真実であるとすれば」という仮定に基づく部分が含まれていますが、両社の技術提携後間もない時期の調査であることを考えれば、現時点における対応としてはやむをえないようにも思われます。
そして、公取委自身も仮定に基づく調査結果である点を意識しているからこそ、具体的な問題行為が生じていないか今後も状況をチェックしていく必要があるとして通報窓口となる専用メールアドレスを設定しているのです。

独禁法の世界における現時点の対応として、公取委の調査結果はいちおう理解可能なものと思われます。
ただし、グーグルのシェアが圧倒的になることは法律論を超えて問題であり、一般的な言論のテーマとしてこの問題についておおいに意見が交わされるべきであるとも思います。