パートタイム労働法が改正されます
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<ポイント>
◆差別待遇が禁止される労働者の範囲が拡大
◆違反には事業主名の公表や過料の制裁など厳しい措置
◆改正法への対応は喫緊の課題

平成26年4月に「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム労働法)が改正されました。施行日は平成27年4月1日です。
パートタイム労働者とは、法律の正式名称からわかるように、所定労働時間が通常の労働者と比べて短い労働者のことをいいます。
パートタイム労働のメリットとして、企業としては、正社員に比べて柔軟に雇用調整が可能であり、また、比較的低いコストで労働力を調達できるということがあります。一方、労働者側からみれば、子育て等の理由により就業時間に制約がある場合でも働くことが可能になるなど柔軟な働き方ができるというメリットがあります。
パートタイム労働者の保護の見地から、平成5年にパートタイム労働法が制定され、その後、平成19年に改正がなされました。
しかし、現状としては、パートタイム労働者の待遇面は給与が正社員の70%に留まるなど充分とはいえないものになっています。

なお、平成19年の主な改正点は以下のとおりです。
(1)昇給・退職手当及び賞与の有無について労働条件の文書交付を義務化(過料による制裁あり)・待遇決定にあたって考慮した事項について求めがあった場合の説明を義務化
(2)(賃金・職業訓練及び福利厚生利用の)均等・均衡待遇の確保の促進
(3) 正社員募集の際の周知義務など正社員への転換を推進するための措置の義務付け
上記のうち、特に注目するべき点として、(2)の均等・均衡待遇の確保の促進について、正社員と同視すべきパートタイム労働者について差別的取り扱いを禁止することを明示しました。
具体的には、職務の内容及び転勤や昇進などの人材活用の仕組みが正社員と同じで、無期労働契約(反復更新により無期労働契約と同視できる有期労働契約を含む)を締結しているパートタイム労働者について、正社員との差別的取扱いを禁止しました。

しかし、平成19年の改正によってもパートタイム労働者の処遇は大幅に改善されたとはいえず、その問題意識を受け、今般の改正がなされました。内容は以下のとおりです。
(1)公正な待遇の確保
① 差別待遇の禁止される労働者の範囲の拡大(現行法第8条1項を改正 改正法第9条)
平成19年の改正を受け、企業側の意識も少しずつ変化し、約半数の企業で法改正をうけて何らかの措置を実施し、約1割の企業でパートタイム労働者の賃金処遇を改善しました。
しかし、パートタイム労働者の不満のトップは依然として「賃金が安い」ことであり、実際にも賃金格差が解消されたわけではありません。
そもそも、平成19年の改正法では、正社員と同視すべきパートタイム労働者の条件として、前述のとおり無期労働契約をしていなければなりませんでした。
本来正社員と同じ待遇をうけるべきと考えられる「正社員と職務、人材活用の仕組みが同じパートタイム労働者」は2.1%ですが、無期労働契約を締結しているパートタイム労働者はそれより少ない1.3%であり、差別待遇が禁止される労働者がさらに限定されるという問題点が指摘されていました。
それを受けて、今般の改正では、無期労働契約条項が削除されました。
つまり、職務の内容や人材活用の仕組みが正社員と同じであれば、契約期間にかかわらず正社員との差別的取扱いが禁止されるのです。
この点が今回の改正の最重要ポイントといえます。
② 「パートタイム労働者の待遇の原則」の新設(法第8条)
事業主が雇用するパートタイム労働者の待遇と正社員の待遇を相違させる場合は、その待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない、とする全てのパートタイム労働者を対象とする待遇の原則が創設されました。
これにより、前項の差別的待遇が禁止される労働者に限らず、全てのパートタイム労働者について職務の内容や人材活用の仕組みが同じであれば、正社員と平等に取り扱いをするべきという原則が明文化されました。
企業側としてはパートタイム労働者の差別待遇禁止について広く注意を払う必要があるといえます。
③ 職務の内容と密接に関連して支払われる通勤手当が均等確保の努力義務の対象内に
 (施行規則第3条)
「通勤手当」という名目で支払われていても、距離や実際にかかっている経費に関係なく一律の金額を支払っている場合のように、職務の内容に密接に関連して支払われているものは、給与と同視して、正社員との均衡を考慮しつつ、パートタイム労働者の職務の内容、成果、意欲、能力、経験などを勘案して決定するよう努める必要があることになりました。

(2)パートタイム労働者の納得性を高めるための措置
① 雇入時の事業主の説明義務の新設(法第14条1項)
パートタイム労働者を雇い入れたときは、事業主は、実施する雇用管理の改善措置の内容を事業主が説明しなければならないことが規定されました。
具体的には、賃金制度や教育制度、利用可能な福利厚生制度や正社員転換推進措置の内容などが雇用管理の改善措置の内容にあたります。
従前のパートタイム労働法においても、事業主がパートタイム労働者から説明を求められた場合には、待遇の決定にあたって考慮した事実を説明しなければならないことが定められていましたが、今回の改正で、雇入時の説明義務を定め労働条件を認識させることにより、待遇の透明性をさらに高めようとするものです。
② 説明を求めたことによる不利益取扱いの禁止(指針第3の3の(2))
指針により、パートタイム労働者が待遇の決定にあたって考慮した事実について説明を求めたことを理由に、不利益な取り扱いをすることが禁止されました。
不利益な取扱いを恐れてパートタイム労働者が説明を求められないという事態を避けるためです。
③ パートタイム労働者からの相談に対応するための体制整備の義務の新設(法第16条)
事業主は、パートタイム労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければなりません。具体的には、担当者を決めて対応させる、事業主自身が担当者となるなどを決める必要があります。
④ 相談窓口の周知(施行規則第2条)
パートタイム労働者の雇入時に、事業主が文書の交付などにより明示しなければならない事項に、前項の「相談窓口」が追加されました。
⑤ 親族の葬儀などのために勤務しなかったことを理由とする解雇などについて(指針第3の3の(3))
指針により、パートタイム労働者が親族の葬儀などにより勤務しなかったことを理由に解雇などが行われることは適当でないと明記されました。

(3)パートタイム労働法の実効性を高めるための規定の新設
① 厚生労働大臣の勧告に従わない事業主の公表制度の新設(法第18条第2項)
パートタイム労働者に対する文書による労働条件提示、通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者に対する差別的取扱いの禁止、納得性を高めるための措置などに関して、規定に違反している事業主に対して、厚生労働大臣が勧告をしたにもかかわらず、事業主がこれに従わない場合は、厚生労働大臣は、この事業主名を公表できることとなりました。
個別の紛争になる前の行政指導の段階で法律に実効性をもたせるためです。
② 虚偽の報告などをした事業主に対する過料の新設 (法第30条)
事業主がパートタイム労働法の規定に基づく報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料に処せられることになりました。

今回の改正は必ずしも経営環境がよいとはいえない状況のもとで経営サイドにとっては厳しいものではありますが、パートタイム労働者を活用している企業にとって、この法律に対応することは喫緊の課題であると言わざるをえません。