ノウハウ管理の注意点 先使用権の確保に向けて
【関連カテゴリー】

<ポイント>
◆他社が特許取得しても先使用権によれば自社は発明実施が可能
◆先使用権の立証をにらんだノウハウ管理を行うべき

自社の発明についてあえて特許出願せずノウハウとして秘匿しておくことがあります。
特許を取得すれば出願から20年間の独占権が法律上認められますが、発明の内容は公開され、20年間の期間満了後は誰でもその技術を無料で利用できてしまいます。
このため、あえて特許出願せずにノウハウとして自社技術を秘匿するほうが得策な場合があるのです。
ノウハウとして秘匿する方針を採用する場合、不正競争防止法上の営業秘密としての保護を受けることができるように秘密管理を行う必要があるほか、他社が特許出願した場合にいわゆる「先使用権」を主張できるように対策をとっておく必要があります。

自社が発明による事業実施あるいはその準備を行っている段階で他社が同じ発明について特許出願した場合、特許権を取得できるのは他社ですが、自社は特許法に基づく通常実施権を主張して発明の実施をつづけることができます。これが先使用権です。
特許法に基づく実施権でありライセンス契約の締結は不要です。ライセンス料を支払う必要もありません。

先使用権の確保に関して重要となるのが、自社が発明による事業やその準備を行うようになった時期を立証できるようにしておくことです。
時期の立証に関しては確定日付が強力な立証手段になります。
設計図や仕様書などの資料を公証役場に持参して、封筒につめて公証人名での日付印をもらって封印します。これにより、少なくとも確定日付が付された日において当該資料が存在していたことを証明できます。
封印せずに1枚1枚の書類に確定日付をもらうことも可能ですが、改ざんされていないことを示す意味では封印しておくほうがよいです。
対象となる技術を用いた製品がそれほど大きくない場合には、製品自体を封筒や箱に入れて確定日付で封印しておくこともできます。
資料が膨大な量になる、あるいは技術の実施風景を証拠化しておきたいという場合には、文書データや録画データが保存されたディスクを封筒に入れて確定日付で封印しておくことで対処できます。

資料に確定日付にもらっておくことは重要な立証手段になりますが、その一方で、業務のなかで作成される資料の全てについて確定日付をもらいに行くことは不可能です。
証拠としての価値の程度、企業の業態や規模に応じて重要なポイントをおさえていくという発想が必要です。

設計図や仕様書は技術が具体化された時点で作成される資料であるため、これらに確定日付をもらっておくことは、事業実施やその準備の段階にあることを示す有力な証拠であるといえます。設計図や仕様書については確定日付を取得しておく価値は大きいといえます。
裁判例でも先使用権の立証に関して設計図や仕様書は証拠として重視されています。

研究ノート、研究日誌といった内部資料については、必ずしも具体的な事業化段階にあることを示すとはかぎらないこと、日々作成されるものであることから、都度都度確定日付をもらうことには適していません。
しかし、設計図や仕様書が作成される以前の段階で他社から侵害訴訟を提起されれば、研究ノートなどの資料により先使用権の主張をせざるをえません。研究ノート・研究日誌については、この点を意識して可能なかぎり客観性のある資料として作成していく必要があります。
技術内容が明らかになるように研究の意図、方法、成果を記載していくほか、ページの差替えができないノートを用いてページ順に記入していく、鉛筆ではなくボールペンで記入する、日付・作成者を明らかにするといった形式面での留意も必要です。

内部的な研究開発段階を終えて具体的に事業化することが決まった段階で、事業計画書や議事録といった事業化の意思決定を示す資料、研究ノートその他の技術関連資料を一式まとめて確定日付で封印しておくのも有効でしょう。

個々の留意事項を超えた体制づくりという観点からいえば、自社のノウハウを権利として維持するために、文書の作成・管理に関するルールを決めておくべきです。
企業の業態・規模もふまえた内容で規程・マニュアルを取りきめて社内に周知すること。これをするかどうかで、先使用権や営業秘密による権利主張に大きな影響を生じます。
ノウハウ確保にもノウハウがあります。お気軽にご相談ください。