ゴルフ場に対する預託金返還請求について

【ゴルフ会員権の現状】
預託金方式のゴルフ会員権をもっている人にとって、近年の会員権相場の大幅下落は実に不愉快なことです。
500万円の預託金を払って会員となり、一時は2000万円の相場がついていたものの、現在は200万円まで下落している、こういうパターンです。
そこで、自分のコースに愛着も失せ、会員権業者に売りに出そうにも原価割れとなれば、この際ゴルフ場に対し預託金の返還を請求しょうと思うのは自然と言えます。

【預託金の返還請求権】
預託金はその言葉のとおりゴルフ場会社に預けたもので、当然返還してもらえる性格のものです。
多くの場合、入会時の条件で、例えば入会後5年という「据置期間」がもうけられていますが、その期間が経過すれば返還請求ができるのが当然です。
ところが、返還請求をしても多くのゴルフ場はすんなりとは預託金を返そうとしない、これが昨今大きな問題になってきたのです。

【据置期間の延長】
預託金の返還請求を受けたゴルフ場がまずもち出すのが、「理事会で据置き期間が10年に延長されているのでその時期がくるまで返せない。」というせりふです。
その理屈に納得し、それならやむを得ないと思ってあきらる人もあると聞きます。
しかし、そのゴルフ場側の言い分は法律的には通りません。
入会とは、そのときの条件をゴルフ場と会員が合意して行った「契約」です。
契約である以上、その後に一方が勝手に契約内容を変更できないのは言うまでもありません。
据置期間を延長するということは、銀行借入金の返済期限を借主が勝手に延期するようなもので、そんなことが許されるはずがありません。

【預託金を返還できない本当の理由とゴルフ場の立場】
ゴルフ場が預託金を返還できない本当の理由は、ゴルフ場にその資金がないからです。
それもそのはず。会員から集めた預託金の大部分はコースやクラブハウスの建設、募集費用などに使い果たされ、預かり金だからといって銀行預金にしていつでも返せるようにおいてあるわけではないのです。
「そんなことは会員もわかっているでしょう。そのうえ、あなた方は会員権の値上がりを期待して、いつでも会員権業者を通じて他人に譲渡できる、それでよい、と考えていたのではないですか。なのに、誰も予想しなかったバブルの崩壊によって、その思惑がはずれたからといってゴルフ場に預託金を返還せよと言われても、それは身勝手というものです。今請求されるままに預託金を返還していけばゴルフ場は倒産します。」と言われたら。
これには会員側も反論が容易でないことに気がつくでしょう。

【ゴルフ場に有利な裁判例】
このようなゴルフ場の立場を擁護し、会員からゴルフ場に対する預託金返還請求を棄却した裁判例も数件あります。
その論理は、前記の「据置期間の延長」を是認するということです。
「バブル崩壊という、契約締結時に容易に予見できなかった著しい経済状況の変動により、会員からの返還請求が予想を超えて一時的に集中するなどしたため、これに応じて預託金を返還するとゴルフ場の経営そのものに重大な支障が生じるおそれがあるような場合は、『クラブ運営上やむを得ない事情』があったものとして、会則の据置期間を有効に延長することができる。」というものです(東京地裁平成10年9月24日判決)。
しかし、この判決は控訴審で逆転しました。
「バブルの崩壊などの経済変動は、たとえゴルフ場が予期しないものであったとしても、据置期間の到来ははじめからわかっていた事実であり、その間の経済変動は当然考慮しておくべきことがらであったから、天災地変のような事情変更と同様には考えられない。したがって、据置期間を延長する会則の変更を会員に主張することはできない。」というのです(東京高裁平成11年3月30日判決)。
現在では、後者の裁判例が大部分で、会員からの預託返還請求権が法律的に認められることはほぼ間違いないと言えます。

【ゴルフ場側の対策】
1 法律論(前述の東京地裁判決の論理)で真正面から対抗しようとするゴルフ場もありますが、その数は多くありません。
2 多くのゴルフ場は会員側と交渉し、円満に示談を成立させようと努力しています。そのときの条件としては、
大幅減額、または長期の分割払い。
会員権を2~3口に分割し、余分となった会員権を他人に譲渡するか会社が買い上げて資金を回収してもらう。
系列下にある他のコースのプレイ権を特典として与える。
などが提示されるようです。
3 他方、「ない袖は振れない、訴訟でも差押えでも何でもしてくれ」と、開き直るゴルフ場も少なくありません。
今、そのようなゴルフ場に、判決をとった債権者が裁判所執行官を伴って連日のように押しかけています。
その日の売上金、会費が振り込まる銀行預金、カートやコース整備機器、カード会社からの支払金などを差し押さえようとするのです。
ゴルフ場側もそれをのがれるために、運営会社に経営委託したりして、執行を免れるための悪知恵を働かせます。
4 日東興業のように、倒産処理の法的手続きをとって、会員の権利自体をゴルフ場側に有利に変更してしまおうとする動きもあります。
和議を行った日東興業の場合は、会員の預託金は82%カットされました。
平成12年4月1日から和議に代わる法的整理手続として「民事再生法」が施行されました。
和議よりも債権者の同意の条件などが申立会社に有利になったため、預託金の返還請求に耐えられないゴルフ場(一説には600コースあるとも言われています)は積極的に民事再生法の適用を申請するのではないかと予想されています。
4月3日、ハッピーバレーGC(北海道)を経営するマルホ観光開発が先陣を切って民事再生法の申立てを行いました。

【会員側の対策】
会員が預託金の返還を受けたいと思っても、よほどそのゴルフ場の経営状態いい場合でなければ、おとなしく請求しているかぎり、まず返還を受けられることはありません。
内容証明郵便を送りつけても無視されるのがオチです。
弁護士名で内容証明郵便を送りつける程度の行動をとると、ようやく一定の対応をしてきます。
この段階で交渉が始まります。会社側からは上に述べたような条件が提案されてきます。
どこで手を打つかは、ケースバイケースで様々な事情を考慮しなければならないので一概には言えません。
しかし、次のことは認識しておいた方がよさそうです。
つまり、そのようなゴルフ場の財務内容は、今後、少なくとも近い将来、好転することは期待できず、ますます悪化していくであろうということです。なぜなら、ゴルフ場来場者の減少と客単価の低下から黒字経営が極めて困難な状況が続いているからです。
訴訟、判決、強制執行(差押え)といった一定の手順を踏み、手間ひまをかければ、そのゴルフ場が通常の営業を継続しているかぎり、一定の成果を上げられる可能性が高いとは言えるものの、「ない者からは取れない」「乏しいものからは取り難い」という現実の壁は常に覚悟しておかなければなりません。
それに加えて、民事再生法の申立てがなされればほとんどお手上げです。
なお、弁護士にこの種の事件を依頼する場合は、同じ立場の会員を何人か誘い合わせて共同でやるのが好ましと思われます。
1人当たりの費用負担が比較的安くすむことと、ゴルフ場にプレッシャーをかけやすいからです。