いわゆる偽装請負に関する判決-松下プラズマディスプレイ事件
【関連カテゴリー】

2008年4月25日、大阪高裁で、いわゆる偽装請負がなされた場合に、請負会社の労働者と受入企業との間に雇用契約が成立するかが争われた事案について、黙示の雇用契約の成立を認める判決がありました。

事案は以下のとおりです。

プラズマディスプレイパネルを製造していた松下電器産業の子会社(以下では単に「松下」とします)が、家庭用電化製品の製造を請け負うパスコ社との間で業務請負契約を締結し、パスコ社の従業員たる本訴訟の原告に作業に従事させていた。
パスコ社と原告との契約期間は2か月。但し、更新あり。
原告は、作業にあたっては、松下の従業員から指示を受けていた。給与はパスコ社が原告に支払っていた。
原告は松下に、この就労形態が実際には業務請負ではなく労働者派遣であり、いわゆる偽装請負にあたるとして、直接雇用を申し入れ、労働組合に加入するなどするとともに、大阪労働局に偽装請負であることを申告した。
大阪労働局は原告の申告を受け、業務委託契約を解消して労働者派遣契約を締結するよう、松下に対し是正指導を行った。
それを受けてパスコ社は業務請負から撤退、原告はパスコ社を退職し、松下は別の会社から労働者派遣を受け入れた。
直接雇用してほしいとの原告の求めに応じて松下は、期間1年4か月の直接雇用を原告に申し入れた。これに対して、原告は、最終的には、期間については別途異議をとどめるとしたうえで、雇用契約を松下と直接締結し、かつ、就労した。
その一方で、原告が松下に対し期間の定めのない雇用契約とすることを求めていたところ、松下は、1年4か月が経過したことにより契約期間が満了し、契約が終了したとして、現在にいたるまで原告の就労を拒んでいる。
原告は松下に対し、期間の定めのない雇用契約上の地位を有することの確認等を求めて訴訟を提起した。
その根拠としては、黙示の雇用契約の成立、労働者派遣法に基づく雇用契約の成立、原告と松下との雇用契約には期間の定めがないという3点。

1審の大阪地裁は、慰謝料請求を一部認めた以外は、原告の請求を棄却しました。
これに対し、大阪高裁は、以下のような判断を行いました。

もともとの松下とパスコ社間の業務委託契約、パスコ社と原告間の雇用契約は、脱法的な労働者供給契約であり、強度の違法性を有し、公の秩序に違反するものとしていずれも契約当初から無効である。
労働契約も他の契約と同様、黙示の合意によっても成立するところ、その成立の可否を判断するには、当該労務供給の実態から両者間に「事実上の使用従属関係」、「労務提供関係」、「金銭の支払関係」があるかどうか、これらの関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断するのが妥当である。
松下は、原告を直接指揮監督しており、使用従属関係があった。
また、原告がパスコ社から給与として受け取っていた金員は、松下からパスコ社に支払われた業務委託料からパスコ社の利益を控除したものを基礎とし、松下がパスコ社の給与の額を実質的に決定する立場にあった。
原告とパスコ社の間、松下とパスコ社との間の契約が無効であるにもかかわらず、このような実体関係を法的に根拠付けるのは、原告と松下の間の労働契約以外になく、黙示の労働契約の成立が認められる。
契約期間については、原告の主張する「期間の定めのない契約」とは認定せず、もとの原告とパスコ社間の契約と同様に2か月。但し、更新あり。
松下の原告に対する契約終了の通知は解雇の意思表示にあたる。しかし、解雇の意思表示はその理由がなく、権利濫用として無効なので、原告は松下との間で雇用契約上の地位を依然有する。
仮に松下の契約終了の意思表示が雇い止め(期間の定めある雇用契約について、更新せず、期間の満了により終了すること)の意思表示であるとしても、本契約が、何度も更新されていることや業務の内容からある程度継続することが予定されていたと判断されることなどから、松下の雇い止めの意思表示は、更新拒絶の濫用として許されない。

本事案では、両者の間で事実上の使用従属関係があったことについては争いはないようですが、支払関係について、給与が業務委託料からパスコ社の利益を控除したものと認定したことで松下から原告への支払関係を認めた点は、かなり無理があると思われます。
非正規社員の増加等による格差社会化に対する社会的な批判や、本件における松下の原告に対する処遇の厳しさなどが、このように使用者側に厳しい判決を導いたものであると思われます。ただ、本件では、当初は、松下は原告を直接雇用しないというかなり明確な意思があったことが伺われ、そのことを考えるとあまり説得的な判決ではないように思います。
政策的な解決はまた別途考えるべきなのでしょうが、個人的な予想としては、本件の判決については、最高裁では異なった判断がなされるのではないかとも思います。