「占有屋」排除へ ~短期賃借権制度の廃止など~
【関連カテゴリー】

【不良債権処理の法的側面】

日本経済再生のため、金融機関が抱える不良債権の処理が緊喫の課題となっています。
不良債権は貸出先(債務者)の状況に応じて種々分類されますが、法的側面から端的にいうと、債権者との約束どおりに返済されなかった債権、つまり「債務不履行」状態に陥った債権です。
(不良債権の詳しい説明は、このホームページの「資料室」内「法律トピックス(2002年7月以前掲載分)」の「不良債権について(弁護士梅本弘)」をご参照ください。)
債務不履行の場合、債権者は約束どおりの弁済を求めて裁判所に訴えを起こし、勝訴判決をとったうえ、債務者の財産に対し強制執行(競売)をすることになります。
抵当権をもっている債権者の場合は、訴えを起こさずとも、抵当物件を競売にかけることができます。
そして、債権者は、裁判所が競売した物件代金から弁済を受けることができる、これが法律上の債権回収の仕組みです。
ところが、バブル経済崩壊後、不動産の価値が下落し、抵当物件を競売にかけても落札者がなかなか現れないというという現実があります。
そのため、金融機関の不良債権処理が一向にはかどらず、それがまた日本経済の足を引っ張るという悪循環に陥っています。

【占有者を排除する目的】

法制度上も、裁判所が実施する競売がその機能を十分に果たしておらず、そのことが競売制度を利用価値の乏しいものにしているという問題点もあります。
その原因の一つは「占有屋」の存在です。
競売物件をわざと占有し、物件の買受人に対して立退料などを迫るのが「占有屋」です。
個人や企業が競売物件を購入しようとしても、落札して裁判所に代金を納めたにもかかわらず、その後「占有屋」にさらに立退料を払わなければならないような心配があれば、怖くて手を出すことができません。
その結果、買い手がなかなか現れないことになり、競売物件の価値はますます下落し、ひいては不良債権の処理をさらに困難にしているのです。
そこで、この「占有屋」を排除するための対策として、民法、民事執行法、刑法等を改正する必要が指摘され、その改正要綱案が法制審議会(法相の諮問機関)で1月28日までにまとめられました。
要綱案は2月5日の法制審議会総会で正式決定され、法相へ答申されたのち、今国会に改正案として提出される見通しです。
不良債権処理の迅速化を法制度面から手当てする重要な改正案ですのでここにご紹介する次第です。

【短期賃借権の廃止】

まず、「占有屋」に悪用されることの多かった短期賃借権の制度が廃止されます。
ある不動産に抵当権が設定された後にそれを借り受けた賃借人は、その抵当物件が競売されたとき、その買受人に賃借権を主張できないのが原則です。
抵当権者は不動産登記簿を事前にチェックして、その物件に賃借人がいないことを前提に担保価値を計算し、抵当権を設定しているからです。
これに対して、賃借権を例外的に保護しているのが短期賃借権制度です。
ある建物に抵当権が設定された後に賃貸借契約が締結された場合であっても、その契約期間が3年以下であれば、競売後も期間満了まで買受人に対して賃借権を主張することができることになっています。
賃借人の居住権を一定の範囲で保護することによって、抵当物件の利用、担保価値を高めようというのが元々の狙いでした。
ところが、結果的には、多額の敷金を授受したことにして見せかけの短期賃貸借契約を結んだうえ、抵当物件に居座り、買受人に敷金の返還などを要求する「占有屋」に、それを正当化する根拠を与えることになってしまいました。
改正要綱案は、この「占有屋」の存在根拠たる短期賃借権制度を廃止することにしました。

【占有者の特定を合理化】

「占有屋」を立ち退かせる手続きの合理化も改正法の狙いです。
現行の民事執行法でも裁判所が占有者に対して明渡しを命ずることができますが、債権者が裁判所に対して明渡し命令を申し立てるには占有者が誰であるかを特定しなければなりません。
しかし、「占有屋」の手口として、占有者を次々と変えて申立時点で一体誰が占有者かわからなくするということがよく行われ、この占有者の特定ということが障害となって明渡し命令は使いにくいものとなっていました。
そこで、改正要綱案では、申立時の占有者が不明確なままでも、単に「執行の時において不動産を占有する者」として明渡し命令の申立てができることにしました。

【罰則の強化】

違法な「占有者」に対する罰則も強化しています。
強制執行妨害罪には、建物内に廃棄物を大量に持ち込むなど不動産の現状を変えて価値を減損させる行為も処罰対象としています。
競売等妨害罪については、競売開始決定前の入札等の公正を害する行為も罰することができるようにしています。
また、封印破棄罪、強制執行妨害罪の罰則について、「2年以下の懲役」を「3年以下」にし、罰金もそれぞれ「20万円以下」、「30万円以下」を共に「150万円以下」に増額しています。
いわゆるプロの「占有屋」による報酬目的の妨害行為は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金」の加重処罰としています。