「ローマの休日」の著作権はまだ存在するのか
【関連カテゴリー】

最近コンビニや駅の売店などで昔の映画のDVDが格安価格で売られているのを見かけます。
どうして格安で売ることができるかというと、著作権の保護期間が切れて(満了して)いれば、著作権者の承諾を得なくても、つまり使用料を支払わなくても複製ができるからです。こういう著作権のない、一般に公開された著作物は「パブリック・ドメイン」と呼ばれます。著作権に限らず、特許権など知的財産権のない発明などもそのように呼ばれます。

今回、このような格安DVDの著作権が切れているかどうかが裁判で問題となり、著作権者の申立を却下する決定がなされました。
問題のDVDは「ローマの休日」など1953年にアメリカで公開された映画を複製したものです。
映画の著作権者であるパラマウント・ピクチャーズ・コーポレーションはDVDを製造頒布する会社に対し、その差し止めを求め今年(2006年)5月12日、東京地裁に仮処分を申し立てました。
これに対して東京地裁は7月11日、これら映画の著作権の保護期間は2003年(平成15年)12月31日をもって満了したとして、パラマウント社の申立を却下しました。

現行の著作権法では映画の著作権の保護期間は「公表後70年を経過するまで」と定められています。ところが、これは平成15年の法改正によって延長されたもので、改正前は「公表後50年を経過するまで」とありました。東京地裁はこの改正前の条文を適用し、1953年の50年後である2003年の12月31日をもって著作権は切れた、と判断したのでした。
問題は改正前の法律が適用されるのか、改正後の法律が適用されるのかにあります。法改正があった場合、条文の最後に「附則」を設けて、その基準を明らかにします。
そこで、該当する附則を読みますと、「改正法は平成16年1月1日から施行する。」、「映画の著作権の保護期間を公表後70年とする規定は、改正法施行の際現に著作権が存する映画の著作物について適用する。その際現に著作権が消滅している映画の著作物についてはなお従前の例による。」とあります。
これをシンプルに読むと、平成16年1月1日に著作権が存在する映画の著作物については、保護期間を70年とする(結果的には従来より20年延長するということになる。)、他方で平成16年1月1日に著作権が消滅していれば保護期間は50年のまま、つまり、延長もないということになります。
東京地裁は、1953年に公表された映画について、その翌年から起算して50年目である2003年の12月31日の終了をもって保護期間が満了して著作権は消滅したとしました。
そのうえで、改正法が施行された平成16年1月1日では著作権は既に消滅していたのだから、改正法の適用を受けることもない、だから、本件映画は著作物の保護期間が満了したパブリック・ドメインに帰属する著作物というべきで、パラマウント社には「被保全権利」が認められないと判断しました。

この結論自体はシンプルで通りやすいように感じますが、著作権法を所管する文化庁がこれと異なる解釈を取っており、パラマウント社はその解釈に基づいてこの裁判を申し立てていました。
現に文化庁のホームページからダウンロードできる「著作権テキスト ~初めて学ぶ人のために~ 平成18年度 文化庁長官著作権課」でも、「現在(平成18年(2006年))著作権の存続している著作物」の例として、「昭和28年(1953年)『以』降に公表された著作物」を挙げています。
文化庁の見解の根拠は次のとおりです。「本件映画の本来の保護期間が平成15年12月31日午後12時までであって、平成16年1月1日午前零時と同時であるから、本件改正法施行の際、現に改正前の著作権法による著作権が存していた」。
しかし、東京地裁は、この場合保護期間の満了を画する基本的単位は「日」であるから、平成15年の「末日」の終了をもって保護期間は満了したので、平成16年1月1日まで著作権が存続していたということはできない、としました。行政庁の解釈を司法の判断において「法的に誤ったもの」としたのです。

これにより東京地裁は1953年に公開された映画の著作権は(日本において)既に消滅したという結論をとったということです。ちなみに1953年は映画の当たり年とも言われているとのことで、この裁判で対象となった「ローマの休日」、「第17捕虜収容所」の他にも、「東京物語」、「君の名は」、「シェーン」、「恐怖の報酬」などがある(日経新聞7月12日付夕刊)とのことで、影響は大きいようです。

なお、これは仮処分の裁判であったため、パラマウント社としては決定を不服として即時抗告するほか、差し止めの本訴訟を提起して改めて司法判断を仰ぐ方法もあります。