NOVAの破綻による影響

 森田 豪

2007年11月01日

英会話学校を運営している株式会社NOVAが10月26日に会社更生手続開始を申し立てました。
大阪地方裁判所により保全管理人が選任され、更生手続開始決定までの間は、保全管理人が同社の事業の経営、財産の管理処分権限を有することになります。
保全管理人は、同社事業を引継ぐスポンサーを早期に選定するが、この期間内にスポンサーが選定できなければ破産手続に移行する、との方針を公表しています(以上、10月27日付の日経新聞朝刊等)。

解約時の問題につき以前にもこのホームページで説明させて頂きましたが、同社の受講システムでは、受講開始時に購入する受講ポイントが多ければ多いほど単価が安くなるものとされ、多くの受講生が受講料をまとめて前払いしていたとされています。
同社の負債総額は439億円強(7月末日時点での試算 同社ホームページより)とされていますが、受講生(約30万人)が前払いした受講料は今年3月末時点で約255億円にのぼるとされており(10月27日付の日経新聞朝刊より)、解約に伴い発生する前払い受講料返還債務が、同社の負債の相当部分を占めていると思われます。
同社の破綻により、受講を希望する受講生への対応や前払い受講料の返還が大きな消費者問題となっています。

受講生が会社更生手続開始の決定前に前払いしていた受講料の返還を請求する権利は、会社更生の手続上は、「更生債権」として扱われます。
更生債権を有することを認めてもらうには、いかなる原因によってどれだけの額の債権を有しているのか等を会社更生法で定められた手続上で一定期間内に届け出る必要があります。受講者の多くは法的手続についての知識を有していないでしょうから、こうした債権届出をしなければならないこと自体が大きな負担です。
前払い受講料の返還請求権につき債権届出を行って認められたとしても、支払を受けられるのは、会社更生手続の中で定められた弁済計画(更生計画)の範囲内に限られ、通常は一部の支払しか受けられず、支払までの日数もかかります。
なお、会社更生手続から破産手続に移行した場合、前払い受講料返還請求権は「破産債権」となります。破産手続は清算型倒産手続である点では会社更生手続と異なりますが、破産債権は、債権届出が必要な点、支払原資の範囲内で一部の支払しか受けられない点においては更生債権と同様です。

もし、前払い受講料の返還請求権を「共益債権」にできれば、受講生の不利益は(ある程度)回避されますが、事業再建との関係上、スポンサーによる支援なしにこの方策を採ることは困難です。
共益債権というのは、会社更生手続の遂行や事業継続等のために支払う必要がある債権です(例:会社更生手続開始後の取引により生じる代金の請求権)。これについては債権届出は不要とされ、更生計画による債権額カットもなされず、更生会社により随時支払われることになります。
債権の性質上当然には共益債権に該当しないものであっても、裁判所の許可により、更生債権だった債権を共益債権として取扱うことが可能になります。
例えば、会社更生手続を行っていた消費者金融業者のアエル株式会社は、裁判所の許可を得て、同社に対する過払金返還請求権を共益債権としました。
こうした「共益債権化」がなされれば、受講生への前払い受講料返還は更生計画によらず随時なされることになりますが、逆にいえば、受講生からの受講料返還請求に応じるためにNOVAの資金繰りが圧迫されることになります。
上記のように受講料返還債務は膨大であり、NOVAが返還に応じながら事業を再建していくことは、スポンサーによる支援なしには困難なはずです。事業再建が頓挫して支払資金源が尽きれば、結局受講料返還も実現されなくなってしまいます。
なお、今年9月に民事再生手続を申し立てた株式会社クレディア(消費者金融業者)についても、消費者保護的観点から、上記のアエル同様に、過払金返還請求権を共益債権とするよう要望する声が多いようですが、やはり事業再建への影響がネックになって実現していないようです。

NOVAの倒産手続において、受講生が有する前払い受講料返還請求権を充分に保護するためには、やはり強力なスポンサーに登場してもらって資金支援なり事業の引継ぎなりを行ってもらう必要があります。

上記では、受講生が有する前払い受講料返還請求権をいかに保護するか、といういわば消費者保護的観点から説明しましたが、一方では、NOVAに勤務していた外国人講師その他の従業員約4900人への給与数十億円が未払になっているという問題もあります。
未払給与のうち会社更生手続の開始前6か月分については、会社更生法上、共益債権とされます。上記のように更生債権とされる前払い受講料返還請求権と比較すれば、優先的な取扱いになっているという言い方も可能かもしれませんが、あくまでもNOVAに給与支払のための資金がある場合の話です。報道を見る限りNOVAには充分な手許資金がないようであり、未払給与がどの程度支払われるのか必ずしも明らかでありません。
やはり労働者保護の観点からも、スポンサーによる支援が望まれます。

上記のように、NOVAの破綻により大規模な消費者問題、労働者問題となっており、スポンサーの選定が心待ちにされます。
しかし、受講料前払いシステムによってNOVAは受講料の大部分を既に受け取ってしまっているため、解約が殺到しなくとも、新規受講生を獲得できるようにならなければ、事業による収入の見通しは楽観視できず支援も容易ではないのかも知れません。
この点をいかに解決するのかが、同社の事業再建に向けて問題になると思われます。

※10月27日付日経新聞朝刊によれば、当初、保全管理人は1か月以内にスポンサーを選定するとの方針だったようですが、その後、10月31日付同紙朝刊によれば、スポンサー選定のための期間は「遅くとも来週まで」(11月10日あるいは11日)と前倒しで打ち切られることになったそうです。