ISILの殺害犯を日本で裁判にかけられるか

 片井 輝夫

2015年02月15日

<ポイント>
◆国外犯でも日本の刑法の殺人罪の適用がある
◆アメリカの協力で身柄を確保して裁判することは不可能ではない

湯川遥菜さんと後藤健二さんがイスラム過激派組織ISILの構成員とみられる人物によって、斬首されて殺されるという衝撃的な事件が発生しました。ISILは、その惨殺映像をネット上に流し、恐怖を煽って日本を脅迫しました。彼らの猟奇的ともいえる残虐行為には強い怒りを覚えます。

ところで、安倍総理は、後藤さんの殺害が明らかになった2月1日、「テロリストたちを決して許しません。その罪を償わせるために国際社会と連携してまいります。」と、強い口調で述べました。安倍総理のいうテロリストに罪を償わせるとは、どういうことでしょうか。アメリカやヨルダンなど有志連合国に頼んで、ISILの犯人に報復するため軍事攻撃で殺害しようとしているのでしょうか。単なる国民へのリップサービスにすぎず、現実はなにもできないのでしょうか。マスコミも安倍総理発言の真意を量りかねているようです。

しかし、素直に、この安倍総理の発言を聞くと、殺害犯を捕まえて、日本の刑法に照らして、日本の裁判によって処罰することを意味しているように聞こえます。そんなことが本当に可能なのでしょうか。
日本で処罰するとすれば、二つ問題があります。ひとつは、そもそも、日本の刑法が適用されるのかという問題で、もうひとつは、どうやってISILの殺害犯を拘束して日本の法廷に立たせるのかという問題です。

第1の問題ですが、日本の刑法が適用されます。
刑法は、犯罪者が日本国籍を有するか否かは問いませんが、日本国内で行われた犯罪を処罰するのが原則です(刑法第1条)。つまり、外国人が外国で罪を犯しても、日本の刑法が及ばないのが原則です。しかし、日本の刑法は、重大な犯罪について、いくつか例外を設けています。例えば、内乱(国の体制を転覆させる)罪や外患誘致(外国からの武力行使を誘導する)罪などは、外国人が日本国外で犯しても日本の刑法が適用されます(同第2条)。また、日本人に対する殺人や誘拐なども、日本国外で外国人が犯しても日本の刑法が適用されます(同第3条の2)。ISILが、後藤さんらを誘拐して殺害した行為は、この刑法第3条の2の規定によって日本の刑法が適用されることになり、日本の裁判所が処断することができるのです。もちろん、自国のパイロットを焼殺されたヨルダンにも裁判権があると思われます。

第2の問題ですが、これも国際社会との連携があれば不可能ではありません。
というのは、日本はアメリカとの間で犯罪人引渡条約を締結していますので、アメリカ軍が殺害犯を拘束できれば、日本はその引渡を求めることができます。また、引渡条約を締結していない、例えばヨルダンやトルコなどの国であっても、事実上日本に引き渡してくれるのであれば問題はありません。極端な場合、アメリカ軍がシリアに軍事侵入して、殺害犯を拘束し、厚木基地まで連れてきて、厚木基地の玄関から外に放り出してくれれば、日本官憲は殺害犯を逮捕することができます。今回の殺害犯一味は、イギリス国籍を有する過去に収監されたことがある人物と特定されています。顔写真や指紋、音声などの情報が相当あると思われますので、懸賞金をかければ、案外所在情報を簡単に入手することができるかもしれません。またアメリカ軍の装備や軍事作戦能力を駆使すれば、彼らを生きたまま捕まえることも不可能ではないと思います。また、有志連合の協力を得て身柄を確保することは、国際法や日本国内法に触れることもありません。国家の主権侵害と非難され、軍事的攻撃をしてまでISILを抑え込もうとしている国際世論からすると、その点もあまり心配しなくてもいいように思います。

このように、安倍総理の「罪を償わせるために国際社会と連携してまいります」という言葉は、アメリカをはじめとして有志連合国の協力を得て殺害犯を見つけ出し、身柄を拘束して、日本で裁判するという強い決意のように思われてしかたがないのです。
政府が、最近、後藤さんら殺害事件に関して、60数名という大規模な捜査本部を設置して本格的捜査に乗り出したとの報道もあります。これだけの布陣で捜査を開始したのは、犯人を特定して有罪に持ち込める証拠を収集し、犯人の所在を掴もうとしていることの表れではないかと思います。

他方、ヨルダンは、「目には目を」のお国柄もあり、報復のためISILに対して軍事攻撃を開始したようです。しかし、日本が、アメリカなど有志連合の協力を得て、犯人を捕まえて、裁判にかけることができれば、日本は、テロに屈することもなく、かといって泣き寝入りすることもなく、粛々と法を執行する国家として、世界から高く評価されることになるでしょう。
それがあるべき日本の姿のように思います。