DIP型会社更生・・・東京地裁における会社更生の新しい運用

 森田 豪

2009年05月15日

東京地裁商事部が「DIP型会社更生」という今までとは異なる会社更生手続の運用を行うようになりました。
DIPとはDebtor In Possessionの略で、直訳すると「占有する債務者」の意味です。倒産した企業あるいはその経営者自身が業務・財産を管理しながら倒産手続をすすめていくことを指します。DIP型というと典型的には民事再生手続の特色とされてきました。民事再生では通常は管財人は選任されず、再生会社の経営者自らが代理人弁護士のサポートのもとで再建にあたります。
会社更生におけるDIP型というのは、従来の経営者がそのまま管財人に就任して会社再建にあたるというものです。従来の経営者の権限が維持されるという点では民事再生と共通することになります。

会社更生手続では裁判所に選任された管財人が経営権限をにぎって再建をめざします。この点は、従来の運用でもDIP型運用でも同様です。
会社更生の従来の運用では裁判所は倒産手続に詳しい弁護士を管財人として選任し、経営者は退陣することになっていました。経営者からすると会社更生は経営権限を失うことを意味し、自らの手で会社を再建しようとする経営者は会社更生を利用することができませんでした。
これに対してDIP型会社更生では裁判所は従来の経営者のなかから管財人を選任します。これにより肩書は管財人として新しくなりますが従来の経営者が引きつづき会社経営にあたることとなります。

2009年に入り不動産業のクリードを1号案件として、すでに数件の会社更生がDIP型として申し立られています。

DIP型会社更生によれば体制がガラリと変わることなくスムーズに会社更生手続に移行できます。うまくいけば企業価値が大きく損なわれず再建が可能となります。
その一方で、倒産した企業の経営者がそのまま管財人になることについて関係者としては納得できないところがあるかもしれません。
このため、東京地裁商事部は従来の経営陣のなかから管財人を選任するための要件としてつぎの4点をあげています。経営者が望んでも必ずしもDIP型会社更生になるとはかぎりません。
(1)管財人候補者となる経営者につき違法経営などの問題がないこと
(2)主要な債権者がDIP型会社更生に賛成していること
(3)スポンサーがいる場合には、スポンサーがDIP型会社更生に賛成していること
(4)経営陣がとどまることによって手続の公正が損なわれないこと

(1)は、会社に対する損害賠償義務が問題となる役員を管財人に選任してはならないという会社更生法のルールに基づくものです。
この会社更生法のルールは裏返せば損害賠償義務の問題がなければ役員をそのまま管財人に選任してもよいということであり、実は法律上はもともとDIP型会社更生は可能だったのです。

東京地裁では4つの要件をパスできればDIP型により会社更生であっても経営者がそのまま残って再建にあたることができます。この場合は再建型倒産手続のうち会社更生にするか民事再生にするかの判断要素としては、まず担保権者との関係が重要になります。民事再生では担保権者は再生手続中でも担保物件を差し押さえることができます。これを避けるために、再生会社は担保権者と個別に交渉しなければいけません。
これに対して会社更生では担保権者は更生手続中は差し押えができません。担保権者との個別交渉が難しい場合には会社更生が向いているといえます。
また、民事再生と異なり会社更生では株主総会によらずに会社分割や合併など組織再編を行うことができます。許認可をスポンサー企業に引きつげる点で事業譲渡よりも会社分割や合併のほうが有利な場合があり、株主総会なしにこうした組織再編が可能になることも会社更生のメリットです。

東京地裁商事部の裁判官が昨年(2008年)12月にDIP型会社更生の導入に関する論文を発表しました。DIP型導入により会社更生を利用しやすくしたいというのが論文発表の動機づけとのことです。
東京地裁では会社更生は商事部(第8民事部)が担当し、民事再生は倒産部(第20民事部)が担当しています。リーマンショック以降は会社更生の申立件数もだいぶ増加していましたが、なお大型倒産案件の多くが民事再生として倒産部に申し立てられていることについて商事部の裁判官は物足りなさを感じていたのでしょう。

少なくとも現時点ではDIP型会社更生は東京地裁以外では事例がないようです。
大阪地裁その他多くの裁判所では、東京地裁と異なり会社更生も民事再生と同様に倒産部で取り扱っています。ドライにいえば「民事再生でも会社更生でも倒産部の実績としては同じ」かもしれません。
このあたりから東京地裁とそれ以外の裁判所で差がでてくるのか気になるところです。