高齢者の生活、財産を守る成年後見、財産管理契約

 高橋 英伸

2011年03月01日

<ポイント>
◆成年後見により判断能力が低下した高齢者の生活、財産を守ることができる
◆任意後見を利用すれば本人の意思により後見人を選ぶことができる
◆財産管理契約により判断能力が低下する前から財産管理が可能

社会の高齢化、核家族化が進み、高齢者の生活や財産をどのようにサポートするかが社会問題になってきています。そこで、判断能力の低下した高齢者をサポートするための制度について紹介したいと思います。
法律の定めた制度としては成年後見という制度があります。これは判断能力の低下した高齢者や知的障害者をサポートするための制度であり、後見人が本人の身の回りの事務や財産管理をできるようにする制度です。かつては「禁治産制度」という制度がありましたが、より本人の意思が尊重され判断能力の程度に応じた柔軟な対応が可能となるよう「成年後見制度」に改められちょうど10年が経過しました。
成年後見は「法定後見」と「任意後見」の2種類に分かれます。
「法定後見」は本人の判断能力の程度に応じてさらに3種類の制度に分かれます。具体的には本人の判断能力の低い方から順に「後見」「保佐」「補助」制度があります。本人の判断能力が低下した後に、配偶者などが家庭裁判所に申し立てて家庭裁判所が後見人、保佐人または補助人を選任し、これらの者が本人をサポートすることになります。このうち、本人の判断能力が日常の買い物も一人でできないほど低下している場合に利用される「後見」の場合、後見人には、身分関係(婚姻等)など一部の行為を除くほか、ほぼ生活全般に渡る代理権があり、本人が行なった行為の取消権もあります。「法定後見」は民法に定められた制度です。
「任意後見」は判断能力が低下した場合に備えて、判断能力が低下する前に本人が将来後見人となる人(「任意後見人」といいます)を選び、任意後見人に身の回りの事務や財産の管理を事前に頼んでおく制度です。本人が任意後見人との間で公正証書により契約を結ぶことで利用できます。本人の判断能力が低下したときに配偶者など一定の親族や任意後見人の申立てにより、任意後見人を監督する任意後見監督人を家庭裁判所に選任してもらうと、任意後見人による財産管理や生活支援が始まります。
「任意後見」は任意後見契約に関する法律という特別法に規定された制度です。
法定後見の場合、後見人が選任されるのはあくまで本人の判断能力が低下した後のことになります。そうすると実際問題として、後見人が選任されるころには本人は自分で食事を取ることもままならぬことになっていた、財産が散逸していたという問題が生じていることがあります。本人の親族が財産を管理していて親族間にトラブルが生じているという事例もめずらしくありません。事後的対応となる制度であるため、本人のサポートという観点からは法定後見だけでは不十分です。また、後見人は本人の意思で選んだ人物ではありません。
そこで、法定後見を補う制度として任意後見が設けられました。任意後見によれば、本人が元気なうちから、本人の意思に基づいて将来の後見人を選んでおくことができます。任意後見制度が施行されてから10年経ち、ご本人の判断能力が低下して任意後見監督人が選任され、本人のサポートが始まる案件が増えてきました。
もっとも、任意後見も本人をサポートする制度としては不十分な面があります。例えば、本人の判断能力が低下しても任意後見人が任意後見監督人の選任を裁判所に求めない場合、適切な時期に財産管理や生活支援がはじまらず、任意後見契約をした意味が無くなってしまうことがあります。
そこで、法定後見、任意後見をさらに補うものとして、財産管理契約を結ぶ方法があります。これは法定された制度ではなく、契約内容を自由に定めることができます。そこで、本人の判断能力が低下する前から本人の身の回りの世話や財産の管理を始めてもらうという契約が可能です。もちろん、本人が自らの意思で選んだ人に管理してもらうことになります。管理を始めてもらって、うまくいけば続けてもらい、うまくいかなければ本人の意思に基づいて別の人に代わってもらうことも可能になります。
なお、任意後見人や財産管理契約に基づく財産管理人は契約で選ぶことができるので弁護士でなくとも委任が可能です。ただし、任意後見人予定者の監督人がいない間や、財産管理人の監督者をつけなかった場合には、任意後見人予定者や財産管理人が適切に対処してくれるかについては不安が残ります。特に財産管理契約については法的な規制がないために、財産管理人が本人の判断能力が低下したのに乗じて本人の財産を横領するというような問題が生じるリスクがあります。この点、弁護士に依頼すれば中立かつ適切な管理が期待でき、そのような不安はほぼなくなるといえます。
このように、判断能力の低下に備えて考えられる方法としては、財産管理、任意後見、法定後見が考えられます。本人の判断能力が低下した場合でもこのような制度を一切利用せず、ご親族や知人で対応されているのがまだまだ実態であると思います。しかし、ご本人の判断能力が低下した前後から、一部の親族等がよかれと思って本人の面倒をみていても、財産管理などをめぐって親族間で争いが生じたり、本人が放置されたりする事例が増えてきています。このようなことを未然に防ぐためには、ご本人が元気なうちから財産管理契約や任意後見を利用されることが望ましいと思います。