起訴前弁護活動

 片井 輝夫

2013年02月15日

<ポイント>
◆否認事件では、アリバイ・有利証拠の収集をし、虚偽の自白強要を防ぐ活動が中心
◆自白事件では、示談により被害者の宥恕を得て起訴猶予処分にする活動が中心
◆起訴前弁護活動による不起訴は無罪判決に勝る

刑事弁護活動は、大きく分けて、起訴前弁護活動と起訴後弁護活動があります。起訴前弁護活動とは、被疑者が嫌疑を受けて捜査が開始されから起訴か不起訴の処分をうけるまでの弁護活動をいいます。これに対して起訴後弁護活動とは、起訴後の保釈や公判における弁護活動をいいます。
わが国においては、検察官が起訴権限を有しています。検察官は、警察から送致された事件について、まずは有罪判決をとれる程度に証拠がそろっているかを検討します。検察官が、有罪判決をとれる程度の証拠がそろっていないと判断した場合は、「嫌疑なし」あるいは「嫌疑不十分」として不起訴処分に付します。また、検察官は、有罪判決をとれる程度に証拠がそろっていると判断した事件であっても、犯行動機、犯行態様、事案の軽重、被害者側の落ち度の有無程度、再犯の可能性、被疑者の年齢や境遇、被害弁償の有無、被害者の宥恕その他の情状を総合的に考慮して、起訴しないことができます。これを「起訴猶予」といいます。つまり、検察官は有罪と思われるすべての事件を起訴する義務はなく、起訴するかどうかについて、広範囲の裁量権を持っているのです(刑訴法248条)。
したがって、起訴前弁護活動は、検察官が起訴しないようにするための弁護活動ということができます。被疑者が全部あるいは一部の容疑事実を否認している事件(以下、否認事件といいます)であれば「嫌疑不十分」、被疑者が容疑事実を認めている事件(以下、自白事件といいます)であっても、「起訴猶予」という不起訴処分を目指すのです。

まず否認事件の場合について述べます。この場合、弁護人の活動は、アリバイや被疑者の弁解を根拠付ける証拠の収集活動や、虚偽の自白強要を防ぐ活動などが中心となります。
弁護人は、容疑事実を立証できるとは言えないことを主張する上申書や、関連の証拠を提出して検察官に起訴を思いとどまらせるよう活動します。100%のアリバイを立証できなくとも、容疑とされている犯行日時場所に被疑者が別の場所にいた可能性があるということだけでも、起訴を躊躇させることができます。
また、捜査機関による行きすぎた方法での虚偽の自白をとらせないということも必要です。例えば、結果的に人を死に至らしめたという事案でも、殺意をもって死に至らしめたのと、傷害の意思で結果的に死に至ったというのでは、罪名も量刑も異なります。前者は殺人であり後者は傷害致死です。行為の態様から自ずと殺意が明かな場合もありますが、微妙な場合も多いのです。
例えば、刺身包丁で胸を刺したという場合、殺意がなかったとはいえないでしょう。しかし、果物ナイフで相手の太腿を刺したという場合はどうでしょうか。殺意がある場合もあればない場合もあると思います。このような場合に、本当は被疑者に殺意がなかったのに「死んでもいいと思って太腿を刺しました。」という供述を捜査機関にとられてしまうと、公判でこれを覆すことはなかなか困難になります。
捜査機関が、自白を強要したり、誘導したりすることもありますので、こういう場合に、弁護人は、文書で抗議したりなどして、捜査機関の行きすぎた捜査を防ぐことも弁護活動のひとつになります。そうした弁護活動の結果、検察官が起訴を躊躇して不起訴にすることがあります。

つぎに、自白事件の場合ですが、犯行動機に同情すべきところがあるとか、犯行も計画的でないとかというように、犯情が悪くないことを訴えます。
また、暴行・傷害、交通事故、わいせつ行為など被害者がある犯罪では、被害者に謝罪し、あるいは被害弁償をして、刑事処罰まで求めないという趣旨の書面を書いてもらって、検察官に提出するなどして、起訴猶予処分を獲得するための活動を行います。
示談によって犯罪が犯罪でなくなることはないのですが、被害者が刑事処罰を求めていないのであれば、検察官としても起訴するまでもないとして起訴猶予にしやすいことになります。

このような起訴前弁護活動が功を奏しても、無罪判決などの起訴後弁護活動の成果に比べてあまり脚光を浴びることがありませんが、被疑者にとっては、裁判になって無罪になるよりは、そもそも起訴されないで済むに越したことはありません。
一旦起訴されてしまいますと、そのこと自体で、被告人は、社会的信用を失墜しますし、長期の身柄の拘束を受けたりすると、職を失って収入の道をたたれ、場合によっては家庭まで崩壊するという悲惨な結果になることもあります。
そういう意味では、起訴前弁護活動によって不起訴処分を得ることは、無罪判決に勝るのです。