買収防衛策と株主総会の承認~ブルドックソース事件最高裁決定について~

 高橋 英伸

2008年04月15日

4月7日付け日経新聞朝刊は一面で、2008年に入って新たに買収防衛策の導入を決めた企業のうち、敵対的な買収者へ対抗措置を取る際、株主に賛否を問う「株主判断型」が全体の4割を占め、昨年末までの2割弱から急増したと報じました。日経新聞はその原因として、米国のヘッジファンドであるスティールパートナーズが東証二部上場のブルドックソース株式会社に対して敵対的買収をしかけたことからブルドックソースが取った買収防衛策を巡る争いに関して出された2007年(平成19年)8月7日付け最高裁決定の影響を挙げています。
そこで、今回はこの最高裁決定の内容を簡単にご紹介します。なお、以下で「スティール」という場合はスティールパートナーズとその関連会社を含む意味とします。

この事件でブルドックが取った買収防衛策は、全ての株主に対して保有する株式1株あたり3個の割合で新株予約権を無償で割当てるが、その新株予約権に(1)スティールに限り新株予約権を行使できないという差別的行使条件、および(2)ブルドックは対価として株式を交付することで新株予約権を株主から一方的に取得することができるがスティールに限り対価を株式ではなく金銭とするという差別的取得条項を付けるものでした。
大まかにいえば、ブルドック株主総会は、新株予約権の無償割当てに関する事項を株主総会の決議事項とする定款変更と、その可決を条件に上記(1)(2)のような行使条件付・取得条項付新株予約権の無償割当てを行うことを特別決議で可決したのです。
この買収防衛策が導入されると、株主は、新株予約権を自ら行使することで新株を得たり、ブルドックによる一方的な新株予約権取得の対価として新株を与えられることで保有株式数が増えます。しかし、株主の中でもスティールだけは新株予約権の割当を受けても保有株式数を増やすことが全くできなくなって持株比率が大幅に低下し、会社の支配権を獲得することが著しく困難になります。そこで、スティールはこの新株予約権割当ての差止めを裁判所に申し立てました。
これに対して、東京地方裁判所、東京高等裁判所、最高裁判所の全てがスティールの請求を認めませんでした。

最高裁は前提として、株式の内容が平等であり、かつ、同じ種類の株式を同数保有する株主は平等に取り扱われなければならないという株主平等の原則の趣旨が新株予約権の無償割当てにも及ぶと判断しました。
次に、差別的な行使条件や取得条項が株主平等の原則に反しないかという争点に関し、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し相当性を欠くものでない限り、株主平等の原則の趣旨に反するものではないと判断しました。
さらに、誰が企業価値のき損の有無を判断するのかという点については、最終的には株主であるとし、株主総会の手続が適正でなかったり、株主の判断の前提となった事実に虚偽が含まれる場合など判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しなければ、株主の判断は尊重されるとしました。
これらの基準を前提に、最高裁は本件について次のように判断しました。

最高裁は、まず、以下の理由から本件株主の判断を尊重できるとしました。
(1)議決権総数の83.4%という圧倒的多数の株主が本件買収防衛策に賛成している。
(2)総会手続に適正を欠いた点がなかった。
(3)株主は、スティールが全株の取得を目指すと言いながら経営方針や投下資本回収方針を明らかにしないことに基づきスティールの経営支配権の取得が会社の価値をき損すると判断しており、株主の判断に正当性を失わせるような重大な瑕疵は認められない。
次に、最高裁は、上記(3)のように経営方針等を明らかにしないスティールが経営支配権を獲得すると企業価値がき損されるという株主の判断に基づき、買収防衛策の必要性を認めました。
最後に、最高裁は、以下のプラス事情とマイナス事情を総合考慮して、本件買収防衛策に相当性があると判断しました。
(プラス事情)
(1)スティールに株主総会で意見を言う機会が与えられ、かつ、株主総会の議論を経て本件買収防衛策が承認されていること。
(2)スティールが公開買付けの買付価格に基づき算定され本件新株予約権の価値に見合う額の金員の支払を受けることができること。
(マイナス事情)
(1)スティールは差別的な行使条件・取得条項が付いた新株予約権を発行されて持株比率が大幅に低下するおそれがあること。
(2)スティールへの多額の対価支払によって企業価値がき損されるおそれがあること。
以上のように、最高裁は、本件買収防衛策の必要性も相当性も認められるとして、それが株主平等原則に反しないとの結論を導いたのです。

なお、本件新株予約権無償割当てに関しては、それが会社法上の不公正発行に該当するか否かも争われました。
この点に関して最高裁は、上記のように株主平等原則に反しないこと、本件買収防衛策が事前に定められ開示されたものではないけれども突然の公開買付に対応する緊急性があり、かつ、スティールに相当な対価が支払われるものであること、本件防衛策が専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものではないことなどを理由に、不公正発行には当らないとの判断を示しました。

この最高裁決定に先立って、2005年(平成17年)5月27日に経済産業局長の私的研究会である企業価値研究会が「企業価値報告書」を発表し、同時に経済産業省・法務省が「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」を提示しており、これらが株主意思の尊重を強調していたところ、最高裁の決定はこれを踏襲した内容と読むことができます。
これに加え、買収防衛策はともすれば株主の利益を無視した経営陣の保身に利用されかねない制度であるところ株主総会で承認を得ておけば経営陣にとっても防衛策の正当性を確保でき防衛策の法的安定性が増すこと、本件決定は敵対的買収に対する防衛策の適法性判断に関して最高裁が株主意思を尊重する立場を明確にしたことなどから、現在、買収防衛策の導入について株主総会の承認を得る傾向が進んでいるようです。
もっとも、会社法上、公開会社が新株予約権を発行する場合に株主総会決議は基本的に不要とされており、最高裁も本件買収防衛策の導入・発動につき株主総会決議が必須とは言っていません。また、最高裁は本件のような買取り型の防衛策の場合に、最低でどの程度の価値の対価を交付すればよいかについても触れていません。
現在、企業価値研究会が本件最高裁決定を受け、新たに防衛策のルール作りに入っているとのことです。