詐欺破産罪

 高橋 英伸

2012年06月15日

<ポイント>
◆破産法上の詐欺破産罪は破産者の財産を減少させる行為を罰する
◆刑法上の詐欺罪は債権者の財産を直接侵害する行為を罰する
◆詐欺破産をすると、刑事罰を受けるほか、免責されない可能性がある
◆詐欺破産に協力した者も罰される

2012年6月1日、大阪地検特捜部が破産法違反(詐欺破産)罪で土木建築会社「三信ハウジング」(堺市)の元社長、中伝(なかでん)泰三容疑者(70)を起訴したとの報道がありました。起訴状によると、同被告は同社の破産手続前の平成20年6月、同社の口座から3650万円を出金し、うち2300万円について支出したように装い、その中の1500万円を他人名義の口座に入金して隠したとのことです。
この事例では有罪か否かの結論はまだ出ていませんが、破産手続を利用しながらこっそり資産を隠すような事例はしばしばみられます。それらは破産法上、詐欺破産罪の問題になります。

詐欺破産、破産詐欺あるいは倒産詐欺という言葉の一般的なイメージとしては、債務逃れのために資産を隠しつつ破産したような場合や、破産する予定を隠して商売を続けるような場合さすものと思われているかもしれません。
この内、法律上は、前者は破産法に規定のある「詐欺破産罪」の問題です。
後者は刑法に規定のある「詐欺罪」、つまり返す気がないのにお金を借りたというような一般的な詐欺罪の範疇の問題として処理されます。
一言でいえば詐欺破産罪は破産財団を害する罪、刑法上の詐欺罪は直接に債権者の利益を侵害する罪といえるでしょう。

破産法に規定のある「詐欺破産罪」の内容はおおよそ次のとおりです。

破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、債務者の財産を隠匿、損壊し、または現状を変えて価格を減損する行為。あるいは、財産の譲渡や債務の負担を仮装したり、財産を債権者の不利益に処分し、または、債権者に不利益な債務を負担する行為。

破産手続が開始された場合、各債権者は、破産手続開始時点で債務者たる破産者が保有する財産(破産財団)から平等な配当を受ける限度で満足せざるをえないのが通常です。破産財団をきちんと確保することが重要になるのですが、破産者の中には不正に財産を隠すなどして、あるべき財団形成を妨げる者がいます。そこで、破産法は詐欺破産罪の規定を置き、債務者の総財産を減少させることにより、破産手続上の総債権者の利益を害する行為を罰することにしています。

詐欺破産罪の刑は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金とされ、場合によっては懲役と罰金が併科されます。かなり重い刑が定められているといえます。そこで例えば、破産財団の一部が不当に隠匿された場合、管財人が破産法上の権限によって隠匿された財産を破産財団に復帰させ、かつ、破産者は罰金を支払うということがありえます。罰金を払えば隠した財産を戻さなくてよいというわけではありません。

近年の法務省の統計では、詐欺破産罪として立件されるのは年に20~30件、うち起訴されて刑事裁判に進む事件は数件程度となっていて減少傾向が続いているようです。これに対して、破産に絡む刑法上の詐欺事件がどの程度あるかは分かりませんが、詐欺破産罪と比較して大幅に多いということはないのではないかと思います。立件される件数がそれほど多くないのは、いずれの罪にしても違法行為であることは当然として、動機や手口の面で極めて悪質な事例に限って立件されているからだと思います。

例えば、今にも倒産しそうな会社が商品をたたき売り(バッタ売り)した場合、そのような危機的状況下の判断として経済的合理性が認められるものである限り、不利益処分行為として詐欺破産罪に問われることはありません。より具体的には、例えば、運転資金ねん出のため仕入原価1000円のものを500円で叩き売ったのであれば適法、それを10円で売れば違法となるのではないでしょうか。違法と判断される場合でも、さらに安く売り渡された商品の取戻しが簡単にできないような工作をしたなどの悪質性が加わって原状回復ができなかったというような悪質な場合でなければ刑事事件としては立件されないように思います。

また、つい先日まで取引をしていた業者について破産手続が始まった場合に、同業者に対して売掛金等を有していた債権者が、破産する予定を隠して取引をしていたから詐欺だと主張するケースは少なからずあると思います。しかし、破産を申し立てた業者は申立て直前まで再建可能か破産するかを検討しており、故意に騙したとまではいえないケースが多いでしょう。
結局、詐欺破産罪にしても、破産に絡む詐欺罪にしても、極めて悪質なケースが立件されているというのが実態と思われます。

極めて悪質とはいえないまでも、多少の資産を隠匿するようなケースが破産管財の実務ではしばしば見受けられます。その場合、多くの事例では隠した財産などを原状に復させることなどを条件に個人の免責(債務の弁済をしないでよいとする裁判所の決定)を認めたり、取締役に対する損害賠償請求を見送っているものと思われます。他方、管財人、破産申立代理人や裁判所を積極的に騙して複数の財産を隠匿等していて、反省も見られないような悪質な事例は、刑事告訴はしないけれども免責は認めないという処理が考えられます。特に悪質な事例は詐欺破産罪として罪を問い、かつ、免責は認めないという処理になりえるでしょう。

なお、詐欺破産罪は破産財団を減らす行為を罰するものですが、そのような財産の減少行為をした破産者のみならず、それに協力した者も共犯者として罰されることになります。