裁判員裁判の準備手続「公判前整理手続」について

 高橋 英伸

2009年07月15日

2009年5月21日から裁判員制度が始まりましたが、これに先立ち、2005年11月から公判前整理手続という制度が運用されています。
公判前整理手続というのは、裁判員制度が開始されることも念頭に置き、刑事裁判手続の充実や迅速化を目指して導入されたもので、公開法廷で裁判が始まる前に争点と証拠を絞り込む手続です。

この手続では、非公開の場で検察官と弁護人が相互に主張と証拠を出しながら、争点と証拠の整理が行われていきます。
被告人も手続に出席する事ができます。
具体的にはまず検察官が起訴した犯罪事実の全容を記した「証明予定事実記載書面」を出し、犯罪事実を証明するのに必要と考える証拠の取り調べを請求するところから始まります。
検察官は、取り調べを請求した証拠を弁護人に開示します。
なお、取り調べを請求するといっても、実際に裁判所が証拠そのものを取り調べるのは公開裁判が開かれてからです。公開裁判が開かれるまで裁判所は、起訴状、検察官の証明予定事実記載書面、弁護人の予定主張書面、双方から取り調べ請求があった証拠の標目が書かれた一覧表しか見ません。
検察官から証拠の開示を受けた弁護人は、法律が定める一定の類型に該当する証拠で、検察官請求証拠の証明力を判断するために重要なものの開示を求めることができます。この類型には、被告人や証人の供述調書、捜査報告書などがあります。この開示を受けると弁護人は、検察官請求証拠について取り調べの必要性の有無などの意見を明らかにしなければなりません。

この証拠開示請求という手続は画期的な制度です。
それまでは、検察官は取り調べを請求した証拠以外の証拠を弁護側に開示する義務はないとされていて、弁護人が証拠の開示を受けるためには裁判所に訴訟指揮権を行使してもらうほかありませんでした。
公判前整理手続で証拠開示の制度が法定されたことにより、手続上、弁護人は当然に証拠の開示を求められるようになったのですが、実際の運用でも、弁護人は以前より容易に証拠の開示を受けられるようになっています。
検察官はかなりフェアな対応をしてくれているという印象です。
ただし、検察官の手持ちの全部の証拠を開示せよという請求はできないので、存在するであろう証拠を探り当てる必要はあります。

次に、弁護人は、弁護人が主張する事実を記載した「予定主張書面」の提出及び必要な証拠の取り調べ請求をします。取り調べを請求した証拠は検察官に開示しなければなりませんし、検察官からも証拠の開示請求ができます。
今度は、弁護人が検察官と同じ事をするということです。
犯罪事実の証明をしなければならないのは検察官なので、弁護人の予定主張書面には、弁護側が証明しなければいけない事実(正当防衛など)や、検察官の主張する犯罪事実を否定するための検察官のストーリーとは異なる事件の全容などを記載することになります。
ここでも弁護人は検察官に対して、弁護側の主張に関連する証拠の開示を求めることができます(正当防衛を目撃した人の供述調書など)。
その後必要に応じて双方の主張の補充などを行い、公開裁判での争点や取り調べる証拠の整理が終わると、公判前整理手続は終了します。
公開裁判に移行すると新たな証拠の取り調べ請求は制限されます。

この公判前整理手続が行われない事件では、被告人が検察官の主張する犯罪事実を否認するいわゆる否認事件の場合、何ヶ月もかけて公開裁判の審理が進みます。それでは裁判員制度に対応できません。
しかし、公判前整理手続が行われる事件では、否認事件の場合でも裁判員が参加しない公判前整理手続自体は何ヶ月もかかりますが、裁判員が参加する公開裁判に移行すると、数日から1週間程度の連続開廷で事件の審理を完結できるので裁判員制度に対応できるとのことです。
裁判員裁判では必ず公判前整理手続が行われるので、事前に裁判所、検察官及び弁護人の間で争点、証拠の整理がされた状態で、裁判員は審理に参加することになります。