裁判員裁判による量刑が不当とされた事例

 片井 輝夫

2014年09月01日

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◆裁判員裁判でも、過去の量刑に比較して著しく重く罰することは、公平を欠き許されない

平成22年に、大阪・寝屋川市の夫婦が、その三女(当時1才8か月)の顔面や頭を平手で強打して頭を床に打ち付けさせるなどの暴行を加え、その結果、三女が急性硬膜下血腫などの傷害を受け、急性硬膜下血腫による脳腫脹により死亡した事件が起こりました。この傷害致死事件は、裁判員裁判に付され、検察側は懲役10年を求刑しました。第1審の大阪地裁は、この夫婦が継続的に三女に暴行を加えており、犯行態様が悪質なことや児童虐待が社会問題となっているなどの社会情勢を考慮して、二人に求刑の1.5倍である懲役15年を言い渡しました。この事件の控訴審も、第1審判決の犯情に関する評価が誤っているとまではいえないとして、懲役15年の判決を維持しました。控訴審判決に対して、さらに被告人が上告したところ、最高裁は、本年7月24日、原判決を破棄して、夫を懲役10年に,妻を懲役8年に処すると判決しました。

量刑は、裁判官の裁量にゆだねられています。このことは裁判員裁判でも同様で、何人にも介入されることはなく、極端にいうと直感で量刑することも可能です。しかし、司法は三審制度をとっていますので、突拍子もない量刑をすると上級審で覆されることになります。従来、多くの裁判官は、過去の同種事案の量刑を参考にしながら、判決をしていました。多くの過去の裁判例がデータとして集積化、類型化、平均化されると、犯罪類型ごとに量刑の基準のようなものが形成されてきます。裁判官は、この量刑データによる基準をベースにして、その事件の特殊性を勘案して量刑しているのです。

現在では、裁判員制度が導入されており、殺人や傷害致死罪については、裁判官と裁判員が合議して量刑することになっています。裁判員制度は、刑事裁判に国民を参加させることにより、国民の量刑判断を判決に反映できるようにした制度といえます。今回の最高裁の判決も、このことを否定するものではなく、裁判員制度導入によって、「先例の集積結果に相応の変容を与えることがあり得ることは当然に想定されていた。」と述べています。つまり、例えば児童虐待事件については、その再発抑制のため重罰を科すべしとする裁判員の量刑判断が多数を占めれば、次第に児童虐待事案の重罰化が進み、それが先例として集積され、あらたな量刑基準になることは是認されているのです。現に、一般的には、その傾向にあるといえます。

しかし、担当する裁判員の個性や考え方によって、同じ悪質度の犯罪について、ある刑事被告人には軽い判決が、別の被告人には重い判決をなされるとすると、公平を欠くことになります。同じ程度の事案で量刑に大きなばらつきが生じることは避けなければなりませんし、従来の量刑基準に比べて著しく異なる量刑をする場合は、相応の根拠が必要です。
最高裁は、原審の判断が「これまでの量刑の傾向から踏み出し,公益の代表者である検察官の懲役10年という求刑を大幅に超える懲役15年という量刑をすることについて,具体的,説得的な根拠が示されているとはいい難い。」としました。