裁判員制度の気になる問題点(判決理由)

 片井 輝夫

2008年05月01日

いよいよ2009年5月から、裁判員制度が実施されることになりました。裁判員制度についてはこれまでにも様々な角度から議論がなされてきましたが、これまであまり議論の対象となっていないけれども、現実に裁判員制度が始まった場合に果たしてこの点はどうなるのだろうかと思うことがあります。それは判決理由のことです。

判決には理由を付さなければなりません(刑訴法44条)。「被告人を無期懲役に処する」というのが判決主文で、いわば結論にあたりますが、この結論に至った理由、すなわち犯罪事実を認定するに至った経過や法令適用の根拠を判決理由で明かにしなければなりません。したがって、従来、有罪か無罪かが争われる事件では、非常に詳細に判決理由が述べられます。

事実認定というのは、この事実は間違いないであろうという多数の細かな間接事実を認定していき、この細かな間接事実を人間の行動原理や経験則、科学法則でつなぎ合わせていく作業です。そして、その多数の間接事実が被告人の犯行を裏付ける方向に向いていると、裁判官は犯罪事実を認定できますし、間接事実のいくつかが被告人の犯罪を立証する方向に向いていない、あるいは逆に向いているということになれば、犯罪を犯したと断定するには合理的な疑いが残ることになり無罪を言い渡すことになります。
裁判官はこの細かな間接事実を認定し、そこから推論して犯罪事実を認定する過程を判決理由として書面に書き下ろさなければなりません。この判決理由を書くという作業は、裁判官が、自らの事実認定の正しさを検証していく作業であるともいえます。裁判官が、いい加減な事実認定や、単なる印象だけでの事実認定をすると、この判決理由にいわばボロが出てくるのです。

ところで、第1審判決に対しては、不服であれば被告人あるいは検察官とも控訴することができます。刑事の控訴審の構造は事後審といわれ、第1審判決が誤っているかどうかが審理されることになります。つまり、控訴審では、一から審理がやり直されるのでもなく、第1審に引き続き審理するわけでもないのです。第1審の事実認定や推論に矛盾や飛躍がないかが中心に審理されるのです。
したがって、控訴する側は、判決理由の矛盾を詳細に指摘するということになります。例えば、「第1審判決は、甲、乙という証拠からAという間接事実を認定しているが、甲、乙という証拠からだけではAという間接事実を認めるに足りない。」とか、「Aという間接事実と矛盾する丙という証拠があるのに、第1審判決はこれを無視している。」というようにです。

さて、裁判員制度の話にもどります。裁判員制度では、裁判員の拘束時間をできるだけ少なくしなければなりませんし、評決後できるだけ速やかに判決を宣告するような運用がなされると思います。したがって、判決書は、従来の判決書よりも、かなり簡潔なものになると予想されています。そうなると、裁判官や裁判員がした事実認定の経過のどの点に矛盾や飛躍があるのか、どこに誤りがあるのかを具体的に指摘することができなくなってしまうのです。控訴する場合に、控訴理由をどう書けばいいのか、実務家にとって、非常に気になる問題点です。また、判決理由を詳細に記載する必要がないとなると、どうしても事実認定がいい加減になるのではないかと懸念されます。さらに、判決理由が詳細を欠くようになると、裁判員による裁判に対する国民の信頼感も低下するかもしれません。この問題は、現実に裁判員制度が始まってから表面化するような気がします。