裁判員制度の実施状況

 高橋 英伸

2010年01月15日

2009年12月、最高裁は同年5月21日から10月末日までの裁判員制度の実施状況を取りまとめ、その報告書などをホームページで公開しています。これらの内容を簡単にご紹介します。

上記期間に、各地の裁判所が裁判員裁判対象事件として受理した事件の被告人数は828名でした。そのうち、同期間に有罪無罪についての判決を言い渡された者(判決人員)は47名でした。なお、全て有罪判決となっています。
有罪判決の罪名の内訳は、殺人と強盗致傷が各14名、覚せい剤取締法違反と現住建造物等放火が各4名などとなっています。
調査期間末日時点で、裁判員裁判として受理された事件の被告人数に比べ判決人員が極めて少ないのは、事件が裁判所に受理されてから公開審理が始まるまでに、数ヶ月をかけて「公判前整理手続」が行われるからです。
公判前整理手続は、裁判員が参加する公開審理が行われる前に非公開で行われる争点と証拠の整理手続であり、多くは2ヶ月前後かかります。否認事件については争点と証拠が増えるので、自白事件よりも公判前整理手続に時間がかかりますが、それでも全て4ヶ月以内に終わっているようです。
この手続が終わると事件は、順次、公開裁判に向け手続が進行します。
そして、公開審理の日数としては3日間、事件受理から判決に至るまでの期間としては4、5ヶ月がそれぞれ最多となっています。
裁判員裁判対象事件が重大事件であることを考えると裁判手続が短期化しているといえるようです。

裁判員制度が始まる前に市民の関心が高かった裁判員の辞退についても報告がされています。
報告によれば、個々の事件の裁判員候補者として選定された者は4,200人であり、そのうち裁判員裁判が始まるまでに辞退を認められた候補者は合計2,218人でした。なお、最終的には278人の裁判員が選任されています。
辞退事由のトップは「辞任事由などに関する調査票の回答に基づく辞退」764名となっています。
裁判員候補者が裁判員として選任されるまでに合計3回の辞退事由の調査があります。その最初の調査は、裁判員候補者に対して候補者名簿に記載されたことの通知書とともに送られる調査票により行なわれます。「調査票の回答に基づく辞退」は70歳以上の方や学生など一年を通じて裁判員を務められない事由がある場合、その旨を調査票に記載しておけば辞退が認められます。辞退事由がある場合に認められます。
そのほかの事由としてはこれに、「事業における重要用務」513名、「疾病傷害」320名、「介護養育」246名と続きます。
選定された候補者の半数以上が辞退を認められていることから、辞退制度はかなり柔軟に運用されていることがうかがえます。

有罪判決の場合に言い渡す刑については、裁判員裁判によって厳罰化が進むのではないかという見方もされていました。この点に関しては、罪名別の量刑分布に関する統計が公開されています。
そのうち比較的数の多い殺人罪と強盗致傷罪に関する有期懲役の刑期の分布を2008年度の同種の司法統計と比べると、大きな違いはありません。判決人員が少ないため結論を出すのは時期尚早ですが、今のところ明らかな厳罰化傾向はうかがえないようです。

次に、裁判員、裁判員経験者に選任された者候補者に対し裁判員裁判事件終了後に行なわれたするアンケートによれば、裁判員に選ばれる前の時点で「裁判員をやってみたい」と考えていたひとはは、参加に前向きだった裁判員は約26%に過ぎず、「裁判員をやりたくない」と考えていたひと参加を望まない裁判員が約57%に上りました。実施時点と対象者
しかし、裁判員に選ばれ裁判に参加した後の感想としては、よい経験と感じたという肯定的な回答をしたする裁判員経験者が98%以上となっています。の裁判員がよい経験をしたという肯定的な感想になっています。司法への国民参加という目的達成の観点からは、非常によい結果になっているといえるでしょう。
法曹三者(検察官、弁護士、裁判官)の説明の分かり易さについては、検察官、裁判官の説明が分かりやすかったと回答した裁判員経験者が8割から9割であったのに対し、弁護士の説明が分かりやすかったと回答した裁判員経験者は6割程度にとどまっています。弁護士だけが差をつけられている状況ですので、弁護士のプレゼンテーション能力向上が喫緊の課題となっています。

最高裁の調査からは、裁判員制度はおおむね順調に実施されているといえるようです。