裁判員になれない場合、辞退できる場合

 高橋 英伸

2009年01月15日

今年5月21日から始まる裁判員制度に向けて、昨年11月末、裁判員候補者名簿に載った候補者に対して、一斉に名簿に載ったことを知らせる通知が発送されました。最高裁が設置した候補者向けのコールセンターへの問い合わせ内容の半数が裁判員の辞退に関するものであったとのことです。そこで、今回は、裁判員になれない場合と辞退できる場合について簡単に解説します。

裁判員の選任手続は、衆議院議員の選挙人名簿記載者の中から、くじで裁判員候補者を選び、裁判員候補者名簿を作るところから始まります。
その後、候補者には、名簿に載ったことを知らせる通知書が送られます。この通知書には裁判員になれない事由や客観的な辞退事由などを尋ねる(1)調査票が付されます。調査票の返送によって、裁判員になれない事由などが認められる候補者は、その後、裁判所に呼ばれることはありません。
次に、個別の事件ごとに、裁判員候補者名簿の中から裁判員候補者がくじで選ばれ、呼出状が送られます。この呼出状には、辞退事由などを尋ねる(2)質問票が付されます。この質問票の返送により、辞退事由が認めれられる候補者については、呼出が取り消されます。
辞退を希望しなかったり,質問票の記載のみからでは辞退が認められなかった候補者は,選任手続の当日,裁判所へ行くことになります。候補者は、最後に辞退の希望の有無や理由について(3)裁判長からの質問を受けます。
(3)でも辞退事由などがないと認められる候補者の中から、裁判所が個別事件につき正式な裁判員を選任することになります。
候補者は、(1)~(3)の手続を経て絞られていきます。

では、具体的にどういう事由があれば、裁判員になれず、あるいは裁判員を辞退できるのでしょうか。

まず、裁判員になれない事由については、裁判員法(正式名称「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」)やその規則に定めがあり、以下のようなものがあります。
1.欠格事由
義務教育を終えていないこと、禁固刑以上の刑に服していることなど

2.就職禁止事由
国会議員、裁判官、検察官、弁護士、警察官などであること

3.不適格事由
個別の事件についての被告人の親族である者、被害者など

これらの事由は公平な裁判を実現するためなどの理由から裁判員になれない事由とされました。
客観的資料から上記の事由が確認されれば、その後、裁判員に選任されることはありません。

次に、同法が定める裁判員を辞退できる事由には以下のようなものがあります。

1.70歳以上の者、学生(常時通学を要する過程にある者に限る)、地方議会議員(会期中に限る)、5年以内に裁判員であった者等
これらの場合は、該当する身分であればそれだけで辞退が認められます。学生証の写しを提出するなどして、身分を証明することになるようです。

2.重い病気、同居の親族の介護、父母の葬儀など他の期日に行えない社会生活上の重要な用務があるなどの事情で出頭が困難な者
これらの場合も、該当事由の存在を説明し、例えば診断書や要介護認定書の写しを示すなどしてその存在を証明できれば辞退できるようです。

3.「その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがあるものがあ」り、出頭が困難な者
例えば、仕事が忙しいという場合は、この事由に該当するか否かの問題となります。
この事由について、最高裁はHPで次のように説明しています。
「個々のケースごとに,裁判所が,その用務の重要性,自ら行うことの必要性,著しい損害が生じる可能性等を考慮して,裁判員の仕事を行うことが困難であるかどうかを検討し,裁判員を辞退することを認めるかどうかを判断することになります。自営業者である,あるいは,農繁期であるということだけで直ちに辞退が認められるわけではありませんが,裁判員の仕事を行うことが困難かどうかを判断する中で,自営業者であることや農繁期であることも考慮要素となると考えられます。」
この裁判所の説明については、基準として明確な説明ではないという評価もされています。

なお、最高裁HPでは、仕事が忙しい場合に辞退を認めるか否かについて、以下の要素を挙げています。
(1)裁判員として職務に従事する期間
(2)事業所の規模
(3)担当職務について代替性があるかどうか
(4)予定される業務の日時変更の可能性があるかどうか
(5)裁判員として参加することによる事業への影響が直接的であるか
この基準からいくと、会社員や会社役員は、単に会社が忙しい時期にあるとか、取締役会があるというだけでは辞退を認められないように思います。

4.「その他政令で定めるやむを得ない事由」があり出頭が困難な者
政令は2008年1月に制定されており、次のような事由を定めています。
(1)妊婦である者
(2)住所・居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり出頭困難な者
 (例えば、外国に長期滞在している者を指すようです)
(3)裁判員をすることにより精神上又は経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の理由がある者 (信条・信仰により裁判員となることを拒否することができる場合があることを認めるものといわれています。いずれにしても、厳しい基準です。)

以上が、現在までに明らかになってきている裁判員になれない場合、および辞退できる場合の概要です。辞退事由を認める基準が必ずしも明確とは言いがたい状態ですが、裁判員制度が始まれば、各地方裁判所で辞退事由などの認定事例が蓄積してより明確な基準ができ、例えば、どういう仕事がどの程度忙しければ辞退できるかということも明らかになってくるものと思われます。