自転車事故の損害賠償

 高橋 英伸

2014年06月15日

<ポイント>
◆自転車であるから賠償義務が軽減されるという理屈はない
◆保険の効かない自転車事故の被害者は泣き寝入りの危険が相対的に高い
◆自動車,火災保険に自転車事故をカバーする特約等がないか確認の価値あり

近年、交通事故は全体では減少傾向ですが、その中で自転車が関わる事故は19%、交通事故に関わる死傷者に占める自転車事故の死傷者は15%という状況にあり、自転車事故は依然、身近で危険な事故といえます。自動車事故との比較でいえば、死亡者は年間5人前後にとどまり自動車事故よりはるかに低水準であることが示すように死亡、重症事故にはなりにくい事故とはいえます。
しかし、軽傷事案も含めれば非常に多くの事故で人身に対する賠償の問題が生じていることは確かです。以下では自転車事故に関する損害賠償に関してその法的性質や賠償の実務上の問題について触れていきます。

このところ、自転車事故に関して高額な賠償を命じる判決が出たという報道をしばしば見かけます。昨年では自転車事故で植物状態になってしまった被害者に対して、加害者児童の母に約9500万円の支払いを命じる判決が神戸地裁で言い渡され、加害者側に酷ではないかと話題になっていました。しかし、賠償の実務の場では、自転車事故の死亡、重症事故で賠償額が数千万円以上に上ることは稀ではありません。法的には、被害者の損害額は加害者側が自転車であるか自動車であるかとは無関係に計算されるし、一部例外を除き加害者側が自転車であるから賠償義務額が割り引かれるわけではないからです。

責任を問われる主体の面では、自転車に乗るのに免許が不要であることもあり、自転車事故では子供が加害者となり、子供自身や親が責任を問われるケースが自動車事故よりも多いという特色があります。加害者がおおよそ小学生までであれば民法の規定により親が無条件に責任を問われることが多く、中学生以上であれば子供自身が責任を問われることになりますが親が管理責任を問われる場合もあります。

過失の面では、交通弱者をより保護し、強者の過失を重く評価する考え方が定着しています。例えば、車対車の5:5の事故が車対バイクでは6:4と評価されたりします。これは自転車にも当てはまり、自転車が弱者に立つ限り相手の車やバイクの過失が重く評価されることになりますが、自転車側が相手に怪我をさせる場合に多くの相手は自転車か歩行者でしょうからこの考え方の適用はなく、かえって過失が重く評価されうることになります。

このように加害者側が自転車の場合、加害者が自動車の場合と同じような賠償責任を負うことになるとして、実務上多くのケースで問題になるのは自転車運転者の資力です。自転車に自賠責のような強制加入保険はなく、任意保険に加入している場合も自動車の場合い比べれば相当程度低い状況にあります。そこで、賠償額が多額になれば加害者が払えないという事態になりがちです。このような場合の対応やその限界については「無保険車を相手とする交通事故事件問題」(2013年5月15日号)をご覧ください。

なお、自転車事故に対応する保険商品は実はかなりあります。自分が他人を加害した場合の損害賠償をカバーするものとして個人賠償責任保険、自分の怪我に関する損害をカバーするものとして傷害保険があります。これらは火災保険や自動車保険とセットになっていることもよくあるようですから、自転車事故の当事者になった時、自転車そのものに保険を掛けた記憶がない場合でも他の保険でカバーされていないか調べてみるとよいでしょう。筆者としても、依頼者に他の保険でカバーされていないか確認を勧めた結果、使えるものが判明したということはしばしばあることです。