自動運転と民事上の損害賠償責任に関する問題

 高橋 英伸

2017年04月15日

<ポイント>
◆完全自動運転が実現すれば乗員の損害賠償責任を問えなくなるかもしれない
◆損害賠償に関し現行法の枠組みで対応不可の完全自動運転社会の到来は遠い

官民 ITS 構想・ロードマップ 2016は、自動運転に関して「安全運転支援システム・自動走行システムの定義」を定めています。これによれば、自動制御を行う運転支援の手段は以下の4つのレベルに分類・定義されています。

レベル1 加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う。
レベル2 加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う。
レベル3 加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、システムが要請したときのみドライバーが対応する。
レベル4 加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、ドライバーが全く関与しない(無人運転を含む完全自動運転)。

すでにレベル2までが広く実用化されており、レベル3の実用化もそう遠くはない模様です。このような自動運転に関する著しい技術の進歩を踏まえ、自動運転時の交通事故に関する責任の主体等をどのように考えるべきかについて議論が開始されています。細かい議論は割愛しますが、その趨勢は、レベル3まではドライバー個人の注意義務違反等を追及できるため現行法の枠組みでも損害賠償の問題に対応可能であるが、レベル4の場合、個人の運転に関する責任を観念できず、そもそもドライバーなるものも観念できなくなるため損害賠償のあり方については抜本的な見直しが必要となるというもののようです。

しかし、自家用車に関する限り、レベル4の場合の議論については抽象的で、しかも未来を先取りしすぎているきらいがあります。なぜなら、個人の注意義務違反を問えないような完全自動運転がこの先10~20年で実現するとは考えがたいからです。

具体的に考えてみましょう。加速・操舵・制動をすべてシステムが行える最新の自家用車が販売されたとします。それは、従前の乗用車と同様の商品なら、決まったルート、地点(駅)のみを走るものではなく、乗員が自由に行く場所を決められ、タイヤで完走できるルートである限りどこでも到達できる乗り物であるはずです。
しかしこの先数十年で、ありとあらゆる場所へ完全自動運転で到達できる車が販売されるようになるとは考えられません。例えば、「△△の山道を通って○○へ行け」と指示しても、当面は「そのルートでは行けません」と車が答えることになるでしょう。自動運転で行けない場所でも人の運転では行けるようにするならば、結局、自家用車にはハンドルやアクセルなども必要です。どこにでも行ける車を作るのなら、今後数十年間、乗員が運行に関与する余地の無い車が販売されるとは考えがたいと思います。

他方、完全自動運転ができるエリアやルートは年々広がっていくでしょう。
そこで終には、例えば都市部はほぼ完全自動運転ができ、完全自動運転できない場所には行かず、運転手が行くことを望んでもハンドルもアクセルもない車が売り出されるかもしれません。
しかし、次のハードルとして、システムエラーや物理的故障が一切生じず、システムや機械が正常に働いている限り100%事故が起きない車は絶対に作ることができないという問題があります。それゆえ、どれだけ自動運転技術が進歩していっても、メーカーが、交通事故に関する損害賠償責任を全て引き受ける自家用車を販売するとは思えません。今後数十年の間は、どれだけ自動運転技術が進歩しても、メーカーは現在同様、自動運転技術は運転を支援するものに過ぎず、ドライバーに代わって運転をするものではないというのではないでしょうか。最低でもブレーキあるいは緊急停止ボタンといったものを残して、緊急時には運転者が対応するよう求め、行き先を決めたら着くまで寝てても良いという商品には決してしないように思えます。

法規制の面でも、完全自動運転車であれば乗員は寝ていてもよい、一切注意義務を負わないと規定できる日はなかなか来ないのではないでしょうか。ある水準を満たす自動運転が可能な車以外は走行できないという法律ができる日が来るまで、公道上には、全く自動運転のできない車から最先端の自動運転車まで、さまざまな車が混在することになります。自動運転車であっても、メーカーや年代によって大きく技術に差があるでしょう。そのような道路で事故が起きてどちらがどれだけ過失があるかを評価しなければならない場合に、手動運転車と自動運転車の間で過失に大きな差が生まれるようになるのは非常に不公平と感じます。

例えば、自動運転モードであったためブレーキの踏み遅れがなくなるかもしれません(人と違い空走距離はなくなるはず。また、少々わき見運転をしていてもブレーキ制動に遅れは生じないはず。)。その結果、自動運転車の場合は、通常より著しく踏み遅れたなどと認定され、過失が1~2割加算されることは避けられるのかもしれません。

しかし、例えば、劣後する道路を走っていた自動運転車と優先道路を走っていた手動運転車の出会い頭事故のような事案では基本的に自動運転車の方が悪いという枠組みは維持されるべきでしょう。最終的に運転に関する責任がドライバーに委ねられていればドライバーの人としての注意義務違反は従前どおり想定できるし、技術の優劣を比較することは容易でないことから、「原告は被告より技術が優っているA車の車に乗っていたから過失が低い」というような主張が裁判所で通るようになるとは到底思えないのです。

いずれにせよ、当面、ドライバーには不測の事態を想定し、それに備える義務があるということになると考えます。自家用車に関する限り、更に技術が進歩していってもレベル3から先に進むのは、今の道路状況からは想像もできないほどの未来が来てからではないでしょうか。