継続雇用での賃金減が労働契約法違反とされた裁判例

 池野 由香里

2016年07月01日

<ポイント>
◆法は有期契約労働者の不合理な労働条件を禁止
◆職務の内容や配置の変更の範囲に違いがあるかどうかがポイント
◆今後の裁判所の判断が待たれる

今回は、定年退職後の賃金減額が労働契約法に違反するとされた裁判例(東京地裁平成28年5月13日)をご紹介します。

事案は以下のとおりです。
輸送事業会社を定年退職したあとに、再雇用制度により期間の定めのある労働契約を締結している従業員らが、定年前と同じ業務なのに年収が約3割減ったとして、期間の定めのない労働契約を締結している従業員との間に不合理な労働条件の相違が存在するとして、この不合理な労働条件の定めは労働契約法20条により無効であり、一般の就業規則等の規定が適用されることになるとして、就業規則等の規定により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額等の支払いなどを求めました。

労働契約法20条は、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めたものです。
具体的には、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」と定められています。

この裁判では、会社側は、定年後再雇用であることを理由に正社員との間で労働条件の相違を設けているのであって、期間の定めがあることを理由として労働条件の相違を設けているわけではないから、この有期労働契約においては、労働契約法20条は適用されないと主張しました。
しかし、裁判所は、労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定であると解されるところ、労働条件の相違が、期間の有無に関連して生じたものであることを要するが、他方において、期間の有無を理由として労働条件の相違を設けた場合に限定して解すべき根拠は乏しい、としました。そのうえで、有期契約労働者である定年後に再雇用された嘱託社員と無期契約労働者である正社員との間には、賃金の定めについて、その地位の区別に基づく定型的な労働条件の相違があることが認められるとして、労働条件の相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであることが明らかであるとして、労働契約法20条の適用はあると判断しました。

そして、裁判所は、この相違が不合理なものと認められるか否かについて、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず、労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について、有期労働契約者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れないとしました。
そのうえで、本件について、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲は正社員と同一であると認定しました。
さらに、賃金の差異について正当と解すべき特段の事情があるかどうかについて、①一般に、従業員が定年退職後も引き続いて雇用されるに当たり、その賃金が引き下げられる場合が多いことは公知の事実であり、賃金コストの無制限な増大を回避しつつ定年到達者の雇用を確保するため、定年後継続雇用者の賃金を定年前から引き下げることそれ自体には合理性が認められる。②しかし、我が国の企業一般において、定年の前後で職務の内容や職務の内容及び配置の変更の範囲が全く変わらないまま賃金だけを引き下げることが企業一般において広く行われているとまでは認められず、③この会社における正社員の賃金体系は、基本給に年功的要素が取り入れられているものの、賃金額を検討すると、定年退職者を再雇用して正社員と同じ業務に従事させたほうが正社員を新たに雇い入れるより賃金コストを圧縮できることになり、定年後再雇用者を定年前と全く同じ立場で同じ業務に従事させつつ、その賃金水準を新規採用の正社員よりも低く設定することにより、定年後再雇用制度を賃金コストの圧縮の手段として用いることまでもが正当であると解することはできないと言わざるを得ない、としています。

そして、本件においては、嘱託社員と正社員との間に職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲に全く違いがないにもかかわらず、賃金の額に関する労働条件に相違を設けることを正当と解すべき特段の事情は認められないとし、労働契約法20条により、本件有期労働契約の賃金の定めは無効であるとして、原則として全従業員に適用される就業規則等の定めに従った賃金が定められるとして、従業員らの請求を認めました。

この裁判例は、地裁判決であり、継続雇用後の再雇用が労働契約法20条の射程範囲と解すべきかどうかに加え、継続雇用制度が年金の支給開始年齢の引き上げを受けて創設された制度であり、再雇用後の賃金が従前の75%未満に低下したことを条件に、「高年齢雇用継続給付金」が雇用保険から支給されることになっていることなどとの整合性にも疑問があるところから、最終的には最高裁の判断を待つべきと考えますが、定年退職後の再雇用について、この事案のような運用を行っている会社は相当数あると思われ、この裁判例の実務に与える影響は無視できません。

現時点においては、定年後の再雇用において賃金を正社員の最低額よりも下げているのであれば、全く同じ職務内容、かつ、職務の内容及び配置の変更の範囲が正社員と同様である、という実態になっていないかどうかについて、すみやかに検証することが必要です。