秘密保持契約 検討の勘所

 森田 豪

2012年10月01日

<ポイント>
◆秘密保持契約を締結しないと公知技術とされて知的財産権を損なうことに
◆情報を開示する側か、受け取る側か
◆どの範囲で情報を開示するか

自社の技術上・営業上の情報を相手企業に開示したうえで、あるいは相手企業から開示してもらったうえで以後の取引の可能性を検討するという場合、秘密保持契約について考える必要があります。
秘密保持契約はNDAといわれることもありますが、これはNon Disclosure Agreementを略した用語です。

秘密保持契約を締結せずに自社の企業秘密を開示することは、単に模倣・盗用されるリスクが高まるというだけでなく、自社の法的な権利を損なうことにもつながります。
具体的には、本来なら特許権の対象となるはずだった発明が「すでに外部に開示された公知技術である」とされて特許化できなくなったり、不正競争防止法上の営業秘密としての権利主張ができなくなったりします。

秘密保持契約では、開示された情報を開示・漏洩してはならない、情報を目的外に使用してはならないといった義務が中心的内容になりますが、こうした義務規定の範囲を画するため、対象となる「秘密情報」の定義や秘密保持義務の除外規定を定めます。
また、秘密保持義務や目的外使用禁止の適用期間や、秘密保持契約終了時の情報の破棄・返還、紛争発生時の裁判管轄についても定めます。
開示された情報に基づく知的財産権の取扱いについて定めたり、情報の開示がライセンス許諾などの権利付与を意味するものでないことを宣言することもあります。
これらの規定はある程度まで定型化しており「どうせどれも同じひな型だろう」と考えられがちですが、定型的な規定内容にもバリエーションがあるのでよく検討する必要があります。

細かな文言以前に意識しておくべきポイントは、まず、自社が情報を開示する立場と情報を受け取る立場のいずれなのかということです。
契約条項の形式上は相互に情報開示して相互に秘密保持義務を負う体裁であっても、取引現場の実際としては一方のみが情報を開示するケースがよくあります。
相互に義務を負う条項だからそれでよしというのではなく、秘密保持時契約を締結した後の実際の業務を想定してどちらなのかを考えるようにしてください。
自社が情報を開示する側であるならば、秘密保持義務ができるだけ広く、明確に適用される条項とする必要があります。
一例をあげれば、「秘密情報」の定義規定で「○○に関する情報」と規定するのでは、範囲が限定されるうえに、目的との関連性の有無という要件によって相手方の秘密保持義務の範囲が曖昧になるおそれがあります。
これに対して、秘密情報を「秘密である旨が表示された情報全部」と定義しておけば、情報をやりとりする際の表示にさえ留意すれば、秘密保持義務の対象となる情報を広く、明確にすることができます。

また、実際に当事者間で開示される情報がどのようなものかを考えておく必要があります。
企業秘密は媒体に固定された情報ばかりではなく、かえって重要な秘密ほど書面化、データ化されていない場合があります
書面化・データ化されていない秘密情報をやりとりすることを想定して、秘密情報の定義規定で「媒体への固定の有無を問わない」とか、「口頭で開示された情報で秘密である旨を別に通知した場合は秘密情報に含める」といった規定がおかれています。
しかし、口頭で情報を相手に伝えたうえで秘密である旨の通知を別途行うというのがどの程度実際的かを考えておくべきです。

上記のようなことを意識しつつ、自社が望む契約条項を提示して相手がそれを了解してくれればまだ話しは簡単です。
秘密保持契約のように定型化、ひな型化がすすんだ契約では、相手方が提示してきた文案について修正を要求しても、「これが当社のひな型なので」といって相手が了解してくれない場合も多いです。
大企業と中小企業、発注者側と受注者側のように取引関係上の力関係がはたらくと余計に修正協議は困難です。
契約文言をいじろうにも協議不可能なケースでは、「クリティカルな秘密情報は開示しない」「差し支えない範囲・方法で開示する」という割り切りも大事です。
たとえば、自社特有の新製法にノウハウ的価値があるという場合、リバースエンジニアリングされにくいように工夫した製品サンプルのみを相手に提供し、製法そのものは開示しないというようなやり方です。

ひな型化している契約であるからこそ知恵をしぼる必要が高いともいえます。
気になる案件があればご相談ください。