破産法の改正作業について

 片井 輝夫

2002年04月15日

【改正作業の主眼】
法務省の法制審議会が、従業員の未払い給与の一部支払いを優先させる破産法の改正作業に入りました。
今年の秋までに試案をまとめ、来年の通常国会での成立を目指しているということです。
今回の改正作業の主眼は、企業などの破産で、労働債権を租税債権より優先させること、個人破産者が手元に残せる財産の一部を拡大することです。

【未払い給与の優先化】
会社や個人が破産した場合は、破産管財人が、破産者の財産を換金して、債権者に配当することになります。
原則は、すべての債権者にその債権額に応じて均等に配当しますが、多くの例外があります。例えば、担保権です。
銀行が破産会社に貸し付けるにあたって不動産担保を取っている場合がありますが、担保権を持っている債権者は、破産手続とは無関係に、その権利を実行できます。
したがって、金融機関は、担保不動産を競売に付して、その競売代金から、抵当権の順位に従い、優先的に債権を回収できることになります。
また、担保権がついていない債権も、優先債権と一般債権に別れ、優先債権は一般債権に優先して配当が得られます。
この優先債権の中で、よく問題になるのが租税債権と労働債権です。
従来の破産法では、優先債権の中でも、租税債権が労働債権に優先することになっていました。
したがって、まず、換金された財団から、破産管財人の報酬や費用を支払い、租税を支払い、労働債権を支払った後に残ったお金が一般債権者に対して配当されることになります。
しかし、最近の破産事例の中には、破産者の財産の大半が担保に提供されていたり、多額の税金や社会保険料を支払わないまま倒産する事例もあり、一般債権に対する配当ができないだけではなく、労働者に対する未払い給与すら配当できないケースが増えてきています。
そこで、労働者の生活を保護すべきであるとの観点から、労働者の未払い給与を租税に優先させる改正作業が行われることとなりました。
ただ、租税が劣後的に取り扱われることになりますので、財政難のおり、財務省の抵抗もあり、破産宣告の3ケ月前までの未払い給与についてのみ、優先させる案が検討されている模様です。

【個人破産者の財産の一部確保】
破産は、原則として、破産者の持っている財産を全て換金することになります。
破産者の財産のうち、いわゆる鍋、釜、衣類など一般的に差押が禁止されている財産以外は、すべて換金されます。
したがって、破産者のテレビ、冷蔵庫、洗濯機その他の家財道具や、賃借マンションの保証金、生命保険の積立金、中古の自家用車はもちろん、サラリーマンなどでは退職金まで換金するのが原則です。
従来は、破産管財人が、これらの資産を比較的安く評価して、破産者の親族などに売却してあげて、破産者の生活が維持できるように配慮していました。
しかし、破産者といえども、この現代社会でいちから生活をはじめるためには、最低限必要なものも多く、これらすべてを取り上げてしまうことが、酷なこともあります。
また、破産者の財産すべてを取り上げてしまうと、破産者が、その後経済的に立ち直れないことになりかねません。
それと、いわゆるサラ金破産者との間で不公平な現象が生じてきていることも改正の要因になっていると思われます。
というのは、いわゆるサラ金破産のように、破産者の財産が少ない場合(通常70万円未満)は、破産管財人の費用すら賄えないということで、破産管財人が就任しないで破産手続が終了してしまい、家財道具などが温存されます。
したがって、ある程度財産を残して破産した者は、家財道具まで取り上げられるのに、逆に、財産がわずかな場合は、破産者の資産が処分されないで済むという不公平な現象が生じていたのです。
そこで、改正作業では、個人破産者の破産後の経済的自立を助けるために、必要最小限度の財産は処分しないで破産者に残す制度を設けようとしています。
破産は、今では、誰にでも起こりうることです。
社会も、経済的な破綻者と蔑視するのではなく、経済的な再起を促して、社会からの脱落を防止する必要があり、今回の改正の方向は正しいものと思われます。