相続における信託の活用について

 池田 佳史

2016年02月01日

<ポイント>
◆「遺言による信託」で遺産を相続させる方法がある
◆相続財産を相続人以外の者に管理させる目的でつかえる
◆事業承継にあたり株式の分散を避ける・処分を制限する目的でもつかえる

遺言書では、通常、相続人等のうちの誰がどの相続財産を取得するかを決めておくだけで、その財産をどう使用、処分するかはその人に任されます。それは相続により当該財産の所有権等を取得するため当然のことです。
しかし、相続財産の取得者に障害があったり、幼年であったりして管理できない場合、浪費癖等によりその者の自由な処分に任せると生計の途がなくなるような場合があります。
また、遺言者としては、相続財産の自由な処分に一定の制限をかけておきたい場合もあります。特に会社の経営者が自分の死後の事業の行く末について心配し、その会社の株式の分散や自由な処分を制限したいと考えることは多いと思います。これは未上場会社だけではなく、上場会社でも起こりうることです。
上記のような場合に有用なのが「遺言による信託」です。「信託」の定義は信託法に規定されていますが、上記の例に即していうと、ある者の生計を維持する目的や株式の分散を避ける目的で不動産や株式を譲渡することが含まれます。
なお、信託法は平成18年に84年ぶりに抜本改正されており、そのポイントについては拙稿「信託法の改正」(2007年1月1日掲載)をご参照ください。また、信託銀行などは「遺言信託」という名称で広告宣伝していますが、法律上の信託ではなく遺言をめぐる種々の業務を請け負うという意味で使用しているようです。

上記例のうち相続財産の取得者が管理できないような場合には、遺言書で信頼できる者に信託目的で当該財産を譲渡します(信託を設定する者を「委託者」、信託を担う者を「受託者」といいます)。
そして受託者は信託の目的である特定の者の生計を維持する目的にしたがって、信託財産の管理、処分を行います(このような信託財産から利益を受ける者を「受益者」といいます)。たとえば、賃貸アパートにより家賃を受領して受益者の生活費にあてるなどです。
受益者が死亡するまで信託が続く、また、受益者が死亡した後に別の者を受益者として信託が続くよう遺言することもありますし(「遺贈型受益者連続信託」と呼ばれますが、詳細は割愛します)、受益者が成人する等による場合に信託を終了させて信託財産を受益者に帰属させるよう遺言することもあります。

株式の分散や譲渡により会社の経営に影響が生じることを避けるために、たとえば一定の期間受託者に株式を信託することが考えられます。受託者としては、事業承継者、信頼できる第三者が想定されます。
株主には、株主総会で議決権行使をする権利、配当を受領する権利がありますが、それぞれについて取り決めることができます。
議決権行使については、受託者は遺言された議決権行使方針にしたがって議決権行使をすることになるでしょう。その場合の議決権行使方針については、信託銀行のスチュワードシップコードを参考にすることも考えられます。
配当については、一定額を受益者に支払うことにして生活費として使用させることが多いと思われます。
信託期間を設定した場合、その期間が満了した際に株式を事業承継者に取得させたり、各相続人に分配したりすることが考えられます。
また、遺言による信託も遺留分減殺請求権の対象となるので、この点についての対策も必要です(なお遺留分の特則として「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」がありますが本稿では割愛します)。
事業承継者を株式配当の受益者とし、信託期間満了の際の株式の取得者とする場合、他の相続人は不満を持ち、遺留分減殺請求をする可能性があります。そうすると結果的に株式の分散が起こりうるため、遺留分侵害しないような遺産分割方法を検討する必要があります。
株式の処分を一定期間制限するだけの目的であれば、株式配当の受益者や信託期間満了の際、相続人全員に株式を取得者させて不満を緩和する方法も考えられます。
その中間的な方法として、株式配当の受益者は非事業承継者、信託期間満了時の株式の取得者を事業承継者にするとことも考えられます。

遺言者が死亡する前に意思能力がなくなるような場合もありえます。遺言者の生前に「遺言による信託」と類似の效果を生じさせる方法として「遺言代用信託」があります。
遺言代用信託とは、遺言の代わりに行う信託のことで、委託者の死亡により受益権等を取得する旨の定めのある信託をいいます。
たとえば信託財産から生じる利益等について、委託者生存中は委託者自身を受益者とし、委託者死亡後には特定の相続人等を受益者にする場合です。
株式についていうと、典型的には、委託者が受託者との契約によって信託を設定し、生前の意思能力が欠如した状態になった場合に受託者が予め指図した方針により議決権を行使し、遺言者を受益者として配当を生活費として使用し、遺言者の死亡後には上記と同様の一定期間、株式分散、処分制限の效果を得ることができます。

このように信託を活用することにより、生前及び死後の相続財産についてより希望に近い相続を実現することが可能になります。