無保険車を相手とする交通事故事件の問題

 高橋 英伸

2013年05月15日

<ポイント>
◆交通事故の相手方が無保険の場合は少なくない
◆相手方が無保険の場合、損害賠償に関しては相手方の資力が問題となる

交通事故に関し比較的相談が多いのは相手方が無保険車であるケースです。相手方が無保険というのも内容にはバリエーションがありますが、大まかにいえば任意保険に加入していないケースと、自賠責が切れているケースに分けられます。また、相手方が自転車や歩行者である場合には何らの保険にも加入していないケースの方が圧倒的に多いのですが、以下は、車対車の事故で相手方が無保険の場合に限って話を進めたいと思います。

任意保険に関しては、損害保険料率算出機構の調査によれば、平成24年3月末時点での対人賠償保険加入率、対物賠償保険加入率はいずれも約73%です。
このような割合ということもあってか、相手方が対物ないし対人の任意保険に加入していない事件の相談を弁護士が受けることは少なくありません。
また、人身損害を保障するための自賠責は強制加入保険であり、現実にほとんどの自動車が有効に加入していますが、有効期限切れのため無保険になっている車が相手となる場合がしばしばあります。

では、相手方が無保険車であった場合、どのような問題が起きるのでしょうか。

まず、怪我をしたケースを想定すると、相手方が任意保険に加入していない場合でも自賠責に加入してさえいれば、自賠責による最低限の賠償は受けることができます。しかし、治療期間中の損害について支払われる保険金の上限は120万円ですから、怪我が軽傷ではなくそれなりに長期間通院加療を要するようなものであった場合、治療費や慰謝料など被害者側の損害の合計額が120万円を超えてくる場合は少なくありません。

そのような場合でも被害者は自賠責で填補されない損害部分の賠償をさらに相手方に求めることが法律上は当然にできますが、ここで無保険車特有のリスクがあります。相手方の資力の問題です。任意保険であれ自賠責であれ保険でカバーされる範囲の損害額については、示談や裁判で金額さえ固まれば、保険金が支払われない心配をする必要はまずありません。他方、相手方が無保険車の場合、保険でカバーされない損害額を支払うのは基本的には相手方本人です。
被害者が賠償を受けられるか否かは、相手方の事情、特に資力によることになります。

怪我をした場合、被害者の損害額は治療期間が1ヶ月程度だとしても数十万円程度になってきます。重症となれば数百万円にのぼるケースもあり、さらに後遺障害が残るようなケースでは数千万円にのぼる場合さえあります。いずれにしても人身事故の場合、損害額が多額になるケースが少なくないだけに、相手方が無保険の場合に相手方にそれを賠償するに足る資産、収入がないケースも少なからず出てくるということになります。そして、相手方から満足に支払いを受けられない場合に被害者が弁護士に相談にこられるケースが多いように思います。

もっともそのような場合に、弁護士が代理人となり示談交渉や裁判をしても、弁護士に可能なのは相手方の資力に応じて可能な範囲で賠償させるというところまでというケースが多いのが実情です。具体的には可能な金額で長期の分割弁済をしてもらうという解決となるケースが多いでしょう。客観的に弁済が困難な金額で示談をしてもすぐに弁済できなくなるでしょうし、また、一括弁済ができない損害額の支払いを命じる判決書も資力がない加害者との関係ではいわば紙切れに過ぎないため、現実的な解決を探らざるをえないのです。そこで、場合によっては途方も無い金額を被害者側が諦めざるを得ない場合も出てきます。
もちろん、調査の結果、相手方には運転者本人以外にも責任を問える使用者なり家族なりがいてそれらの者には資力があって弁済が受けられるというようなケースもなくはありませんが、いずれにしろ無保険車が相手の場合には相手側の資力の問題がつきまとうことになります。

相手が自賠責にも加入していない無保険車であった場合には、怪我による損害額全額の賠償が相手方の資力に依存することになります。

次に、車などの物損についてですが、物損については自賠責のような強制加入保険制度はないため、相手が無保険の場合に賠償を受けられるか否かについては、損害額全額が相手の資力に依存することになるのが通常です。幸い怪我や死亡による損害と比べると損害額が膨らまないのですが、金額が少ないがために逃げ切ろうとする加害者がいるのも事実です。

相手が無保険車だった場合に備える保険もあります。
人身被害については例えば搭乗者傷害保険があります。これによれば相手方から賠償が受けられたか否かに関わらず保険金の支払いを受けることができますが、その加入率は約45%にとどまるようです。他方、物損については例えば車両保険があります。こちらの加入率は約42%とのことです。
どこまで備えるかについては負担する保険料との費用対効果も考える必要がありますが、特に人身事故については、相手方が無保険のケースはごくまれという実情にはなく、その場合に被害者側が途方も無い金額について泣き寝入りをするリスクがあるため、自ら保険で備えておいた方がよいように思われます。