海外赴任者を雇用する際の注意点

 池野 由香里

2015年12月15日

<ポイント>
◆海外赴任手当てを基本給とわけて支給する
◆国内へ配置転換することも可能な契約に
◆コントロールの仕組みを作る

海外赴任を予定して労働者を雇用する場合、どのような点に注意すればよいでしょうか。

まずは、給与の決め方についてですが、海外赴任手当と基本給は必ずわけるようにするべきです。
海外に赴任させる場合、給与は国内での勤務にくらべて高額になりがちです。
しかし、給与の名目をわけずに給与総額を決めてしまうと、万一現地でうまくいかずに日本に呼び戻すしかない場合でも、給与を減額するのが難しくなってしまいます。
海外赴任手当ての額を明確に定めておけば、国内で勤務する場合には、海外赴任手当ては発生しなくなります。

これに対しては、もともとこのような労働者は海外赴任させることしか予定しておらず、国内での勤務はまったく想定していないのでこのような配慮は不要だ、との意見もあるかもしれません。
しかし、そうではないのです。
日本国内においても労働者を解雇するのは非常に難しいのはみなさんご存知だと思います。
特に能力不足や人間性に問題があってこのまま仕事を任せるのは難しい、という理由で解雇するためには、問題となる行動をひとつひとつ証拠化したうえで、注意や、懲戒処分などを積み重ねて、それでもなお改善がみられない場合にやっと解雇できるかどうか、というレベルの厳しさなのです。
そして、勤務地が海外になった場合にはさらに難しくなります。
海外に赴任する人は、現地において重要な地位にあることが多く、指導する人がいない場合もありますし、また、仮にいたとしても、海外での業務をこなしながら、国内の人事部などと連携して証拠化、注意、懲戒処分などを行っていくのは大変な労力が必要であり、現実的でない場合も多いのです。
そのようなことから、海外赴任している労働者が任務に不適な場合であっても、いきなり解雇するのは非常に困難です。
かといって、国内にくらべて人員が少ない海外の勤務地において、職務に不適合なことがはっきりしている人物を重要な地位に留めおくこともまた現実的ではありません。
その場合は、国内に配置転換するしかありません。
そこで、国内で勤務する場合の給与についてあらかじめ考えておく必要があるのです。
海外での職責に耐えなかったために国内に配置転換せざるをなかったにもかかわらず、海外で勤務することを想定した高い給与を支払い続けることは会社にとって望ましくありません。
そのような事態を避けるために、基本給と海外赴任手当てをわける必要があるのです。

なお、このように配置転換の可能性を考えて雇用する以上、労働契約書や労働条件通知書に勤務地や給与などを記載するだけでなく、配置転換等は就業規則に従うということがわかる条項を記載しておくべきです。
出向命令書に海外子会社への出向期間を記載し、「この出向期間は延長ないし短縮する場合がある」と書くのでもよいと思います。
そのような記載をせずに雇い入れてしまった場合、そもそもの労働契約の内容として、勤務地が海外に限定されており、配置転換が無効であると主張される場合もあるからです。

次に海外赴任する労働者には、国内の人事担当者等の責任者に対し定期的に業務に関する報告書を出させるなど一定のコントロール下におくシステムを作ったほうがよいと思います。
そうでなければ、勤務地でうまくいかない場合や、具体的にトラブルが発生した場合にも、よほど明らかな事故等がない限り国内からはなかなか指示が出しにくくなってしまい、結局、指導や懲戒処分などを行うことができなくなってしまうからです。
定期的に自分の職務についての問題点、改善点などについて報告させるようにしておけば、指導を行うきっかけになるでしょうし、その機会を利用して上司や同僚からのヒヤリングも不自然でなく行うことができるようになるでしょう。