海外に人材派遣する際に適用される法律

 池野 由香里

2017年02月01日

<ポイント>
◆私法的関係については、「通則法」により定まる
◆最密接関連地法の強行規定が適用される場合も
◆公法的関係については、各法律の解釈により適用範囲が定まる

今回は、海外に人材派遣する際に適用される法律について解説します。

日本の企業から海外に人材を派遣する場合、その労使関係はどの国の法律によって規制されるのでしょうか。
訴訟事件等が、日本の裁判所において審理される場合、私人間の法律関係を規律する私法的関係については、「法の適用に関する通則法」(以下、「通則法」といいます。)によって、適用される法律(準拠法)が決まります。
労働関係の準拠法は、まず、「当事者の選択」によって決まります(通則法第7条)。
当事者による準拠法の選択がない場合には、当該労働契約に最も密接な関係がある地の法(最密接関連地法)が準拠法とされます。
ただし、当事者の選択した法律がある場合でも、その法律が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法でない場合は、労働者が、最密接関連地法のうちの特定の強行規定(法律のうち、当事者の意思にかかわりなく適用される規定。日本の労働法を例にあげると、解雇権の濫用を禁じた労働契約法第16条など)を適用すべきであるとの意思を表示した場合には、その最密接関連地法の強行規定が適用されます(通則法第12条1項)。
最密接関連地法は、原則として労務提供の地の法が最密接関連地法であると推定され、労務提供地が特定できない場合には、当該労働者を雇い入れた事業所所在地の法が最密接関連地法と推定されます(同条2項)。

法律がこのような組み立てになっているので、日本の企業が海外に人材を派遣する場合に、日本法を準拠法とすることを希望するのであれば、その旨合意することを忘れないようにしなければなりません。
ただし、現実には、日本の裁判所において日本の企業と労働者が海外勤務に関する労働問題で争った場合には、特にその点を議論することなく日本法の適用を前提として審理が進むことがほとんどです。
このようなケースの場合は、当事者間で黙示の選択として日本法が準拠法とされていると解釈され、その結果、日本法を準拠法と取り扱っていると考えられます。

なお、前述の最密接関連地法の強行規定の適用について実例をあげると、たとえば日本法が合意による準拠法と認められたケースでも、タイにおいて労務を提供していた労働者から、「割増賃金について日本の法律による125%ではなくタイの法律にしたがって150%の割増賃金を支払ってほしい」と求められた場合は、割増賃金についての定めは強行法規であると考えられますので、最密接関連地法、つまり労務提供地であるタイの法律にしたがって150%の割増賃金を支払う必要があります。
したがって、企業としては、日本法を準拠法と選択したのみで安心することなく、労務提供地の法律について調査をしたうえ、制度設計(たとえば残業手当の場合には給与制度の設定)を行っておくことが必要です。

また、上記の当事者の合意をベースにした私法的な準拠法の決定のほかに、各国の法律のうち、公権力と国民の関係を規律する公法的性質を有する法律については、当事者の意思にかかわらず、各法規の解釈によりその地域的適用範囲が定まります。

労働法は、経済的な弱者の保護を目的とし、当事者間の私的自治による合意を修正する役割を果たす社会法的性質を有する法律であり、その点で公法的性質を有します。したがって、各労働法規の性質に応じてその適用範囲が定まることになります。
たとえば、日本の労働基準法は、違反に対し刑罰が科され、労働基準監督官による行政取締まりがなされるという内容を含むため、当事者の意思にかかわらず日本における労務の提供について適用がなされ、海外における労務の提供については適用されないのが原則と考えられます。
また、労働組合法も日本に存在する労使関係について適用されると考えられています。
なお、海外勤務者についての労基法の適用については、土木建築作業についてですが、以下の内容の通達(昭和25年8月24日 基発第776号)があり、それ以外の事業についても参考になります。
(イ)国外で作業を行う場合に、独立した事業と認められない場合には、当該事業に労基法が適用される。
(ロ)労基法違反が国外で行われた場合には、罰則の適用はない。ただし、日本国内にある使用者に責任がある場合にはこの使用者は処罰される。
(ハ)使用者が国外において労基法違反行為をしても罰則の適用はないが、その場合でも労働者は使用者の民事上の責任を追及することを妨げない。 

以上から、日本の企業が人材を海外派遣する場合には、私的関係については、当事者の選択により適用法が決まり(ただし、労働者が希望すれば密接関連地法の強行規定の適用あり。)、派遣先の国の公法的性質を有する労働法については、その派遣先の国の法律が適用されることになります。

企業としては、派遣する前に、現地の専門家に相談するなどして、その国の労働法についても理解しておく必要があります。