民事再生における清算価値保障

 森田 豪

2008年09月15日

民事再生手続において債務者(負債を抱える企業・人)がどれだけの支払いをしていくことになるかは、再生計画(民事再生における支払計画)によって定められます。通常、債務者自身が再生計画の案を作成します。また、民事再生は倒産手続の一種ですから、再生計画案では、かなりの割合で負債をカットして各債権者に対して一部分のみを支払う内容になります。
再生計画案で定める支払率は、債務者が破産したと仮定した場合に想定される配当率を上回っていなければいけません。民事再生によって破産せずに立ち直るチャンスをもらうのだから、せめて破産の場合よりも多い額を支払いなさいというルールです。清算価値保障原則といわれます。

再生計画案における支払率が清算価値保障原則に違反していると、裁判官はそうした再生計画案を債権者集会の決議にかけません。支払率を修正できないと、民事再生手続は打ち切りになって破産することとなります。
また、清算価値保障原則に違反する再生計画案について、仮に債権者の多くが賛成したとしても、裁判官は再生計画の効力を認めません。この場合も民事再生手続は打ち切られ、通常は破産手続が開始されます。

債権者の多数派が賛成してもダメ、というところから、清算価値保障原則は、少数派の債権者に対して最低限の保護を与えるものといえます。
例えば、民事再生会社の親会社など関連企業が債権者の多数派を占める場合、グループ会社である民事再生会社の存続を優先したい親会社等としては、再生計画案で定める支払率は低くて構わないと考えることがありえます。一方で、他の債権者は、いくらの支払いを受けられるかにより強い関心をもっています。
清算価値保障原則は、債権者間でこうした意見対立がある場合も考慮して、再生計画案で定める支払率についての最低限度の基準を設け、結果的に少数派にまわった債権者に対してもある程度の保護を与えようとするものです。

再生計画案が清算価値保障原則に反していないかをチェックする前提として、もし破産したらどれだけの配当率になるか考える必要があります。負債の額が一定であるとすれば、破産の配当率は、債務者の手持ち財産にどれだけの値段がつくかによります。
このため、債務者は手持ち財産のリストをつくり、それぞれの財産を処分した場合にどれだけの値段がつくか検討し、その結果を裁判所に報告しなければいけません。これを財産評定といいます。

財産評定は民事再生手続の開始日を評価基準時点とし、この時点での手持ち財産の値段を吟味することになります。
財産評定の基準日が民事再生手続の開始日とされることから、清算価値保障原則で問題とされている想定配当率も民事再生手続の開始日を基準に計算されるというのが一応の運用です。つまり、裁判官が民事再生手続を開始すると決定した日現在の債務者の手持ち資産をベースに想定配当率を計算し、再生計画案ではこれを上回る支払率にせよ、ということとなります。
多くの事例ではこうした運用で問題がないでしょう。
しかし、民事再生手続の開始後、債務者がまじめに事業を遂行していても何らかの事情で資産が減少してしまうこともありえます。それでもなお一律に民事再生手続開始時点での想定配当率以上の弁済率を要求すると、なかには酷なケースも生じます。
こうしたことを考慮して、最近では、清算価値保障原則でいう想定配当率について、一律に民事再生手続の開始日のみを基準日とする必要はないとする見解も現れています。