残業時間規制と36協定

 池野 由香里

2016年10月15日

<ポイント>
◆残業をさせるには36協定の締結が必要
◆特別条項により残業の限度時間を延長することが可能
◆労働者の健康を害さないよう配慮を

平成28年9月27日、総理官邸において、「働き方改革実現会議」がスタートしました。
今後、国会への関連法案の提出を目的として議論がなされることになっています。
テーマとしては、「非正規雇用の処遇改善」や「テレワーク等の柔軟な働き方」などのほか、「時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正」、が大きなテーマとしてあげられ、注目を集めています。
また、残業時間に関連して、先日「和食さと」など飲食店427店舗をチェーン展開する「サトレストランシステムズ」が系列店で違法な長時間残業をさせ、残業分の割増賃金を支払わなかったとして、同社と店長らが労働基準法違反(長時間労働)などの疑いで大阪労働局により、大阪地検に書類送検されています。

現在、残業時間についてどのような法規制がなされており、企業としてはどのような点に留意すべきなのでしょうか。
今回は残業時間に関する法規制について解説したいと思います。

労働時間については、労働基準法第32条により、労働者を、1日8時間、1週間で40時間を超えて働かせてはならないとの定めがあります。
ただ、この労働時間だけでは、企業の活動が円滑に行うことが困難であることから、労使が合意すれば、これを超えて働くことができることになっています。
この合意についての定めが労働基準法第36条で基づいてなされていることから、この労使の合意(協定)を「36(サブロク)協定」といいます。
労働基準法第36条では、労働者を、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて労働させる場合や、法定休日(法律で定められた1週1日または4週を通じて4日の休日)に労働させる場合には、労働組合(労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)と書面による協定を予め締結しておかなければならない、と定められています。また、締結した協定は、労働基準監督署に届け出なければなりません。

この36協定があれば許される残業の範囲は、月45時間(変形労働時間制の場合は42時間)、年間360時間(同じく年間320時間)までと厚生労働省の告示によって定められています(一部除外業務・事業あり)。

なお、36協定を締結せずに、あるいは、協定で定められた時間を超えて労働させた場合には、労働基準法第119条に「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処されるとの定めがあるので、注意が必要です。

また、臨時的に前述の上限時間を超えて労働させなければならないような、特別の事情が発生することも考えられます。その場合、「特別条項付サブロク協定(36協定)」を締結すれば、限度時間を更に延長して労働させることができます。
この特別条項付36協定を締結、適用するには次の要件を満たしている必要があります。
① 原則としての延長時間(限度時間以内の時間)を定めること。
② 限度時間を超えて労働させなければならない特別の事情をできるだけ具体的に定めること。
③ 「特別の事情」は、次のア、イに該当するものであること。
ア.一時的又は突発的であること
イ.全体として1年の半分を超えないことが見込まれること
④ 一定時間の途中で特別の事情が生じ、原則としての延長時間を延長する場合に労使がとる手続きを、協議、通告、その他具体的に定めること。
⑤ 限度時間を超えることのできる回数を定めること。
⑥ 限度時間を超える一定の時間を定めること。
⑦ 限度時間を超える一定の時間を定めるに当たっては、当該時間をできる限り短くするよう努めること。
⑧ 限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金の率を定めること。
⑨ 限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金の率は、法定割増賃金率(25%)を超える率とするよう努めること。

つまり、36協定に上記の条件を満たした、特別条項を付ければ、労使の協議等を経れば1年の半分を限度として、さらに残業限度時間を延長することが可能になるのです。
そして、この延長する残業時間について、現状では法規制がないことから、日本人の働きすぎを助長しているとの批判がなされているのです。

このように特別条項付36協定を締結したうえで、労使の協議を経れば、年の半分を限度とはするものの、労働基準法上は、時間の制限なく残業をさせることが可能になります。
しかし、極端な長時間労働により、体調を崩す労働者が出てきた場合には、労災(労働者が業務に起因してこうむる災害)となる場合もあり、企業が労働者に対して損害賠償責任を負うこともあります。
今後、長時間労働を抑止するような法規制がなされることが見込まれますが、そのような規制がなくとも、企業に対しては、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう労働者の健康に十分配慮する義務が課せられている(労働契約法第5条)のですから、労働時間についても労働者の健康を害することがないよう十分配慮せねばなりません。