歴史上の人物名の商標登録見直し

 片井 輝夫

2008年09月15日

2008年2月に、ある貸金業者が「吉田松陰」「高杉晋作」といった著名な歴史上の人物名を商標登録出願し、これに対してこれら歴史上の人物にゆかりのある萩市が特許庁に異議の申立をしました。萩市にすると、吉田松陰や松下村塾などは萩市という地域が生み出したものであって、なんのゆかりもない者が独占的にこの標章を利用できる権利を設定するなどけしからんという思いなのでしょう。そしてこのことがきっかけとなって、特許庁は歴史上の人物名を商標登録することの見直しをすることになりました。

商標は、どのようなものでも登録できるというわけではなく、商標法4条1項は、除外規定を設けて、好ましくない商標の登録を禁止しています。商標登録が禁止されるのは、例えば、国旗、菊花紋章、外国の国旗、国連旗、赤十字旗などで公益的な団体の標章などです。これ以外にも、同条1項8号では、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と定めており、例えば、「小泉純一郎」や「朝青龍」といった人名や四股名を商標登録することはできません。しかし、この規定は生存している人物の氏名や雅号ですので、すでに無くなっている人の人名の場合は、この規定にはひっかからず、従来商標登録が許容されていました。現実には、「織田信長」「徳川家康」などの戦国武将や、「ルノワール」「ゴッホ」などが商標登録されているということです。

今回、特許庁はこの歴史上の人物名の商標登録に関する審査基準の見直しについて、公開意見を募集するなどしています。見直しの理由は、全く関係のない第三者が商標登録して独占的権利を取得することについては、郷土やゆかりの地における地域興し等の地域産業に悪影響を及ぼしかねないことや、故人の名声や名誉を傷つけ遺族の感情を害する懸念があることなどです。登録拒絶の根拠としては、商標法第4条1項7号の「公の秩序又は善良なる風俗を害するおそれがある商標は登録されない」との規定を適用することになりそうです。この公序良俗規定は、そもそもは、例えば卑猥な、あるいは暴力的な商標の登録を阻止しようとした規定です。公序良俗規定は、解釈に幅が大きいものであるだけに、歴史上の人物名の商標登録を禁止するのであれば、立法的解決が望ましいように思います。同様の問題は、例えば、「ねぶた祭」「阿波踊り」などの著名な地域の祭りや行事などの商標登録にも及ぶかもしれません。