検察審査会による強制起訴制度の実績

 片井 輝夫

2014年05月15日

<ポイント>
◆検察審査会の議決によって強制起訴された事件の有罪率は非常に低い
◆強制起訴制度は有効に機能しているとはいえない

我が国では、検察官が刑事事件の起訴・不起訴の権限を独占しています(起訴独占主義)。また検察官は、有罪判決を得るに足りる証拠があっても、情状などの諸般の事情を考慮して、裁量的に不起訴(起訴猶予)できる権限を有しています(起訴便宜主義)。従来から、この検察官の権限を抑制する制度として検察審査会制度が設けられ、不起訴処分に不服のある告訴人又は告発人は、検察審査会に申立ができ、検察審査会は、起訴を相当と判断するときは起訴相当の議決ができることになっています。しかし、従来の規定では、検察審査会の起訴相当の議決に検察官を拘束する効力はなく、検察官は起訴を強制されませんでした。2009年から裁判員制度施行と同時に新しい検察審査会法が施行され、検察審査会が2度起訴相当と議決したときは、起訴が強制される制度に改正されました。国民の視点を尊重して議決に強制力を持たせる改正が行われたのです。

しかし、この新検察審査会制度が有効に機能するのかというと、少なからず疑問がありました。(2009年6月1日掲載の拙稿「新しい検察審査会制度始まる」参照)というのは、検察官が不起訴とする事件の中には、証拠が不十分で有罪判決を得られる確信がない、いわゆる嫌疑不十分の事件が多いからです。検察審査会は不起訴の当不当を議決するだけで、有罪判決をするわけではないので裁判員裁判よりも判断に慎重さを欠く可能性も否定できません。マスコミが責任者探しのキャンペーンをしている事件など、なにか権力者、有名人が犯罪を隠蔽しようとしているようにみえる事件では、安易に起訴相当とされる可能性もあります。こういった嫌疑不十分な事件を安易に強制起訴すると、結果的には裁判所で無罪になってしまいます。強制起訴事件の大半が無罪となるようでは、この制度が、逆に無実の者を被告人席に立たせる悪法ということになるのです。

新検察審査会法施行5年になりますが、強制起訴となった事件の結果をみると、決して新制度が有効に機能しているとはいえない状況です。以下は検察審査会の議決によって強制起訴となった事件の内容と結果です。
1 明石歩道橋事故
明石海岸で行われる花火大会に集まった見物客が駅の歩道橋に押し寄せたために、多数の見物客が歩道橋で圧死した事件です。当時、交通整理を担当していた明石警察署副所長が対策を怠ったとして業務上過失致死に問われました。検察の不起訴理由は嫌疑不十分です。判決の結果は、1,2審とも公訴時効が成立しているとして免訴となりました。
2 福知山線脱線事故
JR福知山線の急カーブを、運転手が電車の遅れを取り戻すために高速度で進入したところ、脱線してしまい多数の乗客が死亡した事件です。JR西日本の歴代3社長が業務上過失致死に問われました。検察の不起訴理由は嫌疑不十分です。結果は、1審で無罪となり、現在控訴中です。
3 未公開株詐欺事件
未公開株の販売に関して、投資会社社長が詐欺罪で強制起訴された事件です。これも不起訴理由は嫌疑不十分です。結果は無罪が確定しています。
4 陸山会事件
民主党前代表の小沢一郎議員が収支報告書に虚偽の記載をしたという政治資金規正法違反事件です。不起訴理由は嫌疑不十分です。結果は1,2審とも無罪で確定しました。
5 尖閣沖漁船衝突事件
中国船が尖閣島沖で海上保安庁の巡視船に体当たりしてきた事件です。中国人船長を公務執行妨害で逮捕したものの、政治的配慮により、不起訴にして釈放したという事件です。不起訴理由は起訴猶予です。強制起訴となりましたが、帰国してしまった中国人船長への起訴状の送達ができず、結果は、公訴棄却となりました。
6 女性従業員暴行事件
徳島県石井町の町長が飲食店の女性従業員の顔を押す暴行をはたらいたとされる事件です。不起訴理由は起訴猶予です。1,2審で科料9000円の有罪判決となりました。
7 女子高生準強姦事件
ゴルフ場練習場経営者がゴルフの指導と称して、困惑している女子高校生に乱暴したとして、準強姦罪で強制起訴された事件です。不起訴理由は嫌疑不十分です。結果は、1審で無罪となりました。
8 柔道教室傷害事件
柔道教室の指導者が小学生を練習中に投げて重度の障害を負わせたという業務上過失傷害の事案です。「片襟体落とし」という投げ技での事故ですが、頭は打たなかったものの、強く揺さぶられた影響で急性硬膜下血腫となり、四肢まひの重い後遺症を負ったという事故で、結果を予見できたか不明として嫌疑不十分となった事件です。1審判決は本年4月30日に言い渡されましたが、禁固1年、執行猶予3年の有罪となりました。強く揺さぶることにより「加速損傷」を予見できるのかが争われた模様ですが、微妙な事案であり、上級審で無罪となる可能性なしとはいえません。

このように、嫌疑不十分で不起訴とされた事件6件のうち、現時点で5件が免訴あるいは無罪で、1件が有罪です。有罪率は、わずか17%です。我が国では、否認事件(無罪を争う事件)でも有罪率は約98%ですので、強制起訴事件の有罪率の低さは異様というほかありません。また、起訴猶予事例では6の事例が有罪判決となっていますが、果たして科料わずか9000円の事件を強制起訴してまで処罰する必要があったか、大いに疑問が残ります。
このような実績を踏まえると、検察審査会制度は有効に機能しているとはいえない状況です。制度自体の見直しが検討されることになるかもしれません。