最高裁が人質司法に警鐘を鳴らす

 片井 輝夫

2015年01月01日

<ポイント>
◆人質司法に改善の兆し
◆冤罪の温床となる勾留長期化、保釈拒否を制限

現在の刑事司法は人質司法といわれています。これは、捜査機関が長期に身柄を拘束することで、被疑者や被告人が否認して争えなくなっていることを指す言葉です。
検察官は、被疑者が否認していると、被疑者に定まった住所があり逃亡の恐れがないときでも、罪証の隠滅や逃亡のおそれがあるとして勾留を請求し、さらに起訴後も保釈に反対します。裁判所も検察官の主張を容れやすく、否認事件では安易に勾留を継続してしまうのです。
特に、軽微な犯罪の場合では、被疑者は否認して無罪を争っても長期の勾留で職や社会的信用を失うことになりますから、とにかく留置場から早く出ようとしてやってもいない犯罪を認めてしまうことがあります。捜査官は、「証拠はすべて揃っている。関係者の調書も採っている。否認したままだと反省がないということで重い刑罰が科されるし、保釈もでない。別件の容疑があるがそれは見逃してやる。この程度の事件であれば認めれば執行猶予になるだろう。」などといろんな圧力と誘惑を被疑者にしかけるのです。
起訴後の勾留も同様で、裁判所は否認事件の被告人の保釈をなかなか認めません。また、否認事件で保釈の決定が出されても、検察は、準抗告したり特別上告したりして徹底的に釈放を妨害しようとします。
このような勾留、保釈の実態が多くの冤罪を生んでいることを人質司法というのです。このような悪しき風潮の責任の一端は安易に勾留を続ける裁判所にあったことはいうまでもありません。

ところが、最高裁判所は、平成26年11月17日と18日、起訴前の勾留および起訴後の保釈について画期的な決定を出しました。11月17日決定の事件は、朝の通勤電車内での痴漢容疑の事件です。
警察は、犯行を否認している被疑者を逮捕し、引き続き勾留請求をしましたが、令状裁判所は、被疑者が前科もなく定まった住所があるサラリーマンであり逃亡の恐れがなく、被疑者が被害者に接触する可能性も少ないことから勾留請求を却下しました。
この勾留却下決定に対して検察官は準抗告し、抗告審は、この却下決定を取り消して、勾留を認めてしまいました。被疑者は、抗告審の勾留決定に対して特別抗告したのです。
最高裁は、勾留を認めた抗告審の判断を見ても、勾留請求を却下した令状裁判所の判断を覆すに足りる理由がなんら示されていないとして抗告審による勾留決定を取り消して勾留を却下、つまり被疑者を釈放することを命じました。
この事件は、平成26年11月5日に発生した事件ですが、同月17日には最高裁によって勾留却下決定がなされるなど、極めて迅速に判断がなされたもので、人質司法といわれる現在の勾留の行き過ぎを最高裁が強く諌めた決定と評価されます。

もうひとつの11月18日の最高裁決定の事例は、電気製品の売買取引に関する詐欺被告事件での保釈の事例です。
詐欺事件を審理している受訴裁判所が、審理もかなり進んで被告人が関係者に圧力をかけるなどの罪証の隠滅の恐れも少なくなったことや、勾留が不相当に長期になっていることを勘案して保釈決定を出しました。この保釈決定に対して、検察官が準抗告したところ、抗告審は検察官の主張を容れて保釈請求を却下してしまいました。
被告人がさらに最高裁に特別抗告したところ、最高裁は、「抗告審は、原決定の当否を事後的に審査するものであり、被告人を保釈するかどうかの判断が現に審理を担当している裁判所の裁量にゆだねられていることに鑑みれば、抗告審としては、受訴裁判所の判断が、委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか、すなわち不合理でないかどうかを審査すべきであって、受訴裁判所の判断を覆す場合には、その判断が不合理であることを具体的に示す必要がある。」ところ、「抗告審は原決定が不合理であることをなんら具体的に示していない。」として、抗告審の保釈却下を取り消し、保釈請求を認めました。これも、前述の事例と同様に、最高裁が勾留の濫用を制限しようとしているものとして評価できます。

ちなみに、勾留請求の却下率は昭和年代後半では1%程度でしたが、最近では4%程度にまで上昇しているとのことです。不当な身柄拘束が冤罪を生んでいるとの批判に、裁判所が少し耳を傾けつつあるようです。