日本長期信用銀行事件に無罪判決

 片井 輝夫

2008年08月15日

1998年7月に破綻した日本長期信用銀行の粉飾決算事件で、最高裁は、2008年7月18日、元頭取ら3人に対し、1、2審の有罪判決を破棄して無罪を言い渡しました。この事件は1998年3月期の日本長期信用銀行の決算で、同行の関連ノンバンクに対する債権を不良債権と評価計上せず、本当は利益が発生していないのに利益が発生したかのように粉飾したとして、元頭取らを旧証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と旧商法違反(違法配当)の罪に問うた事案です。マスコミは、この最高裁の逆転無罪判決を意外な判決と受け取っており、経営破綻させて多額の公的資金を注入させた経営者の責任はどうなるのかというのが報道機関の共通した論調です。

しかし、この刑事事件の逆転判決は、決して意外なものではありません。というのは、この粉飾決算事件は、民事事件でも争われており、元取締役らの民事責任を問う訴訟が起こされていたのですが、その民事事件の第2審判決では、関連ノンバンクの債権の会計処理については、当時、いわば原価会計から時価会計への転換期にあるが、実務では税法基準による会計処理がなされていて、これが公正なる会計慣行であったといえるから、これに従った会計処理は粉飾ではないとして、元取締役らの責任を否定していたのです。民事事件で粉飾といえないと判断されているのに、刑事事件で粉飾だから有罪というのはいかにも矛盾することになりますので、刑事事件でも無罪になると予想されていました。

大きな社会的な事件(大規模な倒産、航空機事故、大災害)が起こると、どうしても犯人捜しというか、誰かに責任を問わなければならないという世論が高まります。マスコミも、これを煽ります。検察も、この世論に応えて、なんとか犯人捜しをして立件して、国民の不満を解消しようとします。そこでかなり無理な立件が行われることもあるのです。

この日本長期信用銀行の粉飾事件では、捜査や報道を苦にして数名の方が自殺しました。検察やマスコミが、無実の人を死に追いやったとも言えます。元頭取らも晴れて無罪にはなったものの、10年近くにわたって大型粉飾事件の犯人という汚名を着せられていたのです。しかし、検察からもマスコミからも、なんの謝罪もないのです。実に残酷な話です。