投資契約とはどのようなものか?(第2回)

 森田 豪

2013年09月01日

<ポイント>
◆株式売却など投資回収の場面でどのようなルールが適用されるか
◆株式公開は困難でありM&Aによるみなし清算の重要度は高い
◆取締役選任、最恵待遇などの権利義務にも注意

ベンチャー企業がベンチャーキャピタルに株式を割り当てて資金調達する場面を念頭において投資契約について解説します。
株価、表明保証、誓約条項、株式買取条項については「投資契約とはどのようなものか?(第1回)」をご参照ください。

今回はみなし清算をはじめとした投資回収の場面で問題となる条項のほか、取締役選任権、最恵待遇条項について説明します。とくにみなし清算などの条項は複雑ですが、どのような趣旨・内容の規定なのかあらかじめ念頭においておけば理解はそれほど難しくありません。

まず、「みなし清算条項」ですが、M&Aによる売却時に受け取る対価をベンチャー企業株主の間でどのように分配するかの取り決めです。
ベンチャー企業は投資回収のための出口スキーム(イグジット)として株式公開を目標とすることが多いものの、実際に株式公開までたどりつくケースはごく少数です。
ベンチャー企業やその株主は株式公開以外の回収方法として株式売却、合併などのいわゆるM&Aによる売却も想定しておく必要があります。
みなし清算条項では、株式売却や合併の際にベンチャー企業側が受け取る対価を株主間でどのような順序で分配するかを決めておきます。「対価」は代金の場合もあれば買い手企業が発行する株式など代金以外の場合もあるので、両方を想定した規定とします。
この規定を設ける場合、優先株式を発行することが前提となります。普通株式のみであれば株主ごとに受け取る対価に差が生じることの説明が困難となるためです。
定款では優先株式の内容として会社清算時の残余財産分配の優先権を定めておきますが、投資契約では株式売却や合併などM&Aの場合にも優先分配ルールを拡張し、普通株主に先だって優先株主(ベンチャーキャピタル)がまず配分を受けることとします。どれだけの金額、割合で優先配分を行うのかも決めておきます。
優先分配後に残りがあれば、経営者株主などの普通株主にも分配がなされます。優先株主がさらに普通株主と同順位で分配を受ける「参加型」と、優先分配後は普通株主のみで分配を行う「非参加型」がありえます。
このみなし清算条項は、直接的には優先株主であるベンチャーキャピタルに有利な内容ですが、優先分配による利害調整を前提とすることでM&Aに向けた株主間の合意がまとまりやすくなることもあります。バランスを欠かなければ経営者株主にとっても意味のある条項です。

次に、「譲渡参加権」、「先買権」についてです。
経営者株主が持ち株を第三者に売ろうとする場合に、ベンチャーキャピタルも持ち株割合に応じて株式売却に参加し(譲渡参加権)、または第三者に優先してベンチャーキャピタルが経営者株主から株式を買い取ること(先買権)を規定します。
株式の分散を既存株主の範囲内にとどめ、また、経営者株主が単独で投資回収を図ることを防ごうという条項です。
ベンチャーキャピタルが権利行使する機会をのがさないように、経営者株主が持ち株を第三者に売却しようとする際には事前に売却条件をベンチャーキャピタルに通知することが要求されます。

「同時売却請求権」は、ベンチャーキャピタルを含む一定割合(通常は過半数以上)の株主が第三者に株式を売却しようとする場合に、経営者株主や他の株主にも同時に株式売却を行うよう義務づけるものです。「強制売却条項」という呼び方もあります。
株式売買によるM&Aでは、経営支配権を確立するだけのまとまった株式数を取得できるのでなければ買い手は現れません。株式売却を成立させるための株式数を確保するため、ベンチャーキャピタルが要求した場合に他の株主にも株式売却の義務を課すのがこの「同時売却請求権」です。株主間の足並みをそろえて売却を行いやすくするための条項といえます。

株式売却時に関係する上記の各条項とは毛色が異なりますが、「取締役選任条項」もベンチャー企業とベンチャーキャピタルの双方にとって大きな意味をもちます。
ベンチャーキャピタルによっては、資金をだすだけでなく経営そのものに積極的に関わっていこうという「ハンズオン」の投資姿勢を打ちだしています。そうしたハンズオンの姿勢を示す際たるものがこの取締役選任条項です。
一定以上の投資を行う場合に、その投資家に取締役を指名する権利をあたえるものです。この条項に基づき、ハンズオンのベンチャーキャピタルは担当キャピタリストを社外取締役として選任するよう求めてきます。
ベンチャー企業1社に対して複数のベンチャーキャピタルが投資を行う場合、大口投資を行って主導的な立場にたつリードベンチャーキャピタルにこの取締役選任権を設定し、投資額が小口な他のベンチャーキャピタルには取締役選任権を認めないことになるでしょう。

ここまでにみたように投資契約にはさまざまな条項があり、それぞれの条項ごとにもバリエーションがあります。特定のベンチャーキャピタルのみが有利な権利を取得することがないよう他のベンチャーキャピタルにも同様の権利をもたせるのが「最恵待遇条項」です。
たとえば、ベンチャーキャピタルA社の投資契約書ではみなし清算条項における優先分配額が「投資金額と同額」とされており、その後に株主となったベンチャーキャピタルB社の投資契約では優先分配額が「投資金額の2倍」とされていたとします。
この場合、A社は最恵待遇条項を根拠にB社同様に「投資金額の2倍」の優先分配を要求できることになります。一部の投資家だけが有利になることがないように定める条項です。
直接的には投資家間の権利バランスの問題ですが、投資条件の交渉にあたってベンチャー企業側もこの最恵待遇条項を意識しておく必要があります。

以上、2回にわたって投資契約の重要な条項について概観してきました。
1つの条項のみでも議論すべきポイントは多くありますが、具合的に気になる事項などあれば気軽にお問い合わせください。